東南アジアの模索と選択

猿田佐世(新外交イニシアティブ(ND)代表・弁護士(日本・米NY州))
2026/09/04

中国は脅威ではない……!?

 「中国は脅威(threat)ではない。機会(opportunity)だ」

 インドネシアのある安全保障の専門家に言われた言葉である。

 この2月、マレーシア・インドネシアを訪問した。アジア各国の安全保障政策の比較調査の一環である。日本でも、徐々に、東南アジア諸国が米中間で中立の立場を採ることが認識されてきた。しかし、今回の訪問では、各国がその立場をさらに強め、ともすれば中国に傾斜している、それを強く感じることとなった。

 日本では安全保障の一番の課題は「中国の脅威」といわれる。しかし、マレーシア・インドネシア両国で、「あなたの国にとって中国は脅威か」と安保専門家や政府関係者との面談の度に聞いたが、「YES」との答えは一向に返ってこなかった。

 「南シナ海での領有権紛争は?」「中国の経済に飲まれる心配は?」「ASEAN(東南アジア諸国連合)は歴史的には反共の組織では?」「あなたの国は安全保障を米国に頼っているのでは?」「……でも、街の人々に聞けば、中国のことが嫌いなのでは?」

 どの角度から質問しても、「中国は脅威である」と言わせることができなかった。そればかりか、中国に対するネガティブな感情を引き出すことが簡単ではないことも少なくなかった。正確に記せば、20人以上との面談で、マレーシアの軍関係者がひとりだけ「中国も脅威」と認めたが、「インドネシアなど他の国も脅威になり得るし、軍の主任務は違法漁業や密輸・不法入国などの国境警備」との説明も続いた。

 両国とも南シナ海の島について中国と領有権紛争を抱え、皆、これについては「管理(control)」しなければならない紛争、と懸念は述べる。しかし、中国とは経済の繋がりが深く、自国の発展は中国に依拠しており、国内に多くの中華系人口がいるのに、それでなぜ中国が脅威になるのか、との論理である。

 他方、両国ともイスラム人口を多く有することもあり、イスラエルのガザ攻撃を支援している等の理由から米国への厳しい視線は社会に通底する。スターバックス等の米国系飲食店のボイコット運動も広がった。 なお、私の帰国直後におきた米国のイラン攻撃についても、インドネシアは慎重な物言いに留まったが、マレーシアは極めて強い言葉で米国を非難している。

 そもそも、冷戦時のバンドン会議(1955年)の非同盟中立の意識を強くもつ国々である。西側諸国による劣悪な植民地支配の記憶も残る。日々、米国の横暴を耳にしながら、中国が自由貿易や国際協力の重要性を語るのであれば、そんな中国はありがたい、そんな声を何度も聞いた。今の米国の振る舞いが続けば、彼らの中国傾斜はさらに強まるだろう。

マレーシア:「小国」のバランス外交 

 この2カ国の安保政策を少し紹介したい。

猿田佐世

(さるた・さよ)新外交イニシアティブ(ND)代表・弁護士(日本・米NY州)。著書に『自発的対米従属』(角川書店)、『新しい日米外交を切り拓く』(集英社)、『米中の狭間を生き抜く』(かもがわ出版)、『世界のなかの日米地位協定』(共著、田畑ブックレット)、『戦争ではなく平和の準備を』(共著、地平社)など。

2026年9月号(最新号)

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