【連載】山椒のひとつぶ(第5回)「男の中の男」トランプ

辛淑玉(ヘイトスピーチに抗する市民団体「のりこえねっと」共同代表)
2026/08/29

 トランプというのは、典型的な「男」のモデルケースだとしみじみ思う。

 何かというと「オレがオレが」ばっかりだし、批判されるとすぐカッとなって相手を罵倒する。褒めてくれる人だけを側に置き、俺はすごいんだと自分から言いふらす。

 しかも、犯罪との境界線を平気で踏み越える。女性作家をレイプした上、不倫関係にあった女性への口止め料を隠ぺいするために帳簿を改ざん。本業の不動産ビジネスでも資産価値を偽装していた。

 支持者を扇動して連邦議会を襲撃させ、しかも大統領権限を悪用して彼らを免罪した。機密文書を勝手に持ち出し、エプスタインファイルに記載された自身の犯罪行為から目をそらすために適当な言いがかりをつけてイランに侵略戦争を仕掛け、小学生ら182人を殺した。

 今も、まるで無人の野であるかのようにガザの「リゾート開発」計画を掲げて利権を狙っている。そこで生きてきた人々を虫けらのように扱い、ジェノサイドを続けるイスラエルへの後方支援を抜かりなくやっているのだ。

 戦争は「ごっこ」では済まされない。大統領権限はガキのオモチャじゃないんだよ。ドナルド、お前はオムツが取れてから世の中に出てこい、大統領なんて1000万年早い、と言いたいくらいだ。

 他者の命に対してこれほどまでに残酷でいられる人間性の欠如。米国内の多様性を根こそぎ否定しながら、ぬけぬけとノーベル平和賞をおねだりしたり、所かまわず自身の名を書き込んだり、自分の顔が描かれた紙幣の発行やら名称変更やら記念日の創設など、北朝鮮王朝も鼻白むほどの幼さ。裸の王様どころじゃない。クソガキそのものだ。

 そのトランプ、今度は2026年ワールドカップサッカー北中米大会で、米国代表のフォラリン・バログン選手が受けたレッドカード(退場処分)に対し、FIFA(国際サッカー連盟)のインファンティノ会長に処分を見直すよう直接電話をかけたという。トランプを太鼓持ちのように表彰したFIFAは、すぐさま「一試合の出場停止処分」の執行に1年間の猶予を設ける形に変えた。SNSでは、バログン選手がレッドカードを出す審判にトランプの顔写真のカードを突き付けるコラ画像が出回った。

 この決定に対して、UEFA(欧州サッカー連盟)は、「前例がなく、理解不能で、正当化できない決定だ」とする異例の抗議声明を発表した。「FIFAはレッドライン(越えてはならない一線)を越えた」と激しく非難もした。ノルウェー代表のストーレ・ソルバッケン監督も「ワールドカップを傷つける最悪の決定だ」と糾弾した。

 他方、米国チームのクリスチャン・プリシッチ選手らは、「あのファウルは厳しすぎた。処分が解けてみんな笑顔になった」とバログン選手の戦力復帰を歓迎したという。

 結果は、ベルギー戦での1対4での大敗だった。もしアメリカが勝っていたら、もっと紛糾していただろう。

 ふと、当のバログン選手は差別主義者のトランプにこんな介入をされて恥ずかしくないのだろうかと思った。

 彼はナイジェリア人の両親の下でニューヨークで生まれたが、生後間もなくロンドンへ移住したため、3つの国籍(米国・英国・ナイジェリア)を持っている。現在はフランスリーグのアンに所属し、ワールドカップではアメリカ代表のエースストライカーとして出場していた。

 ワールドカップサッカーがスポーツマンシップの祭典だなどと言うつもりはない。金にまみれたナショナリズムの祭典の一つであるのは間違いないが、それにしても一国の、それも開催国の大統領が審判の判定にケチをつけるって、どんだけチンケなんだろう。それにヘコヘコ従ったFIFAも、金さえ儲かればいい、と「長いものには巻かれろ」を内面化しているようにしか見えない。

 同時に、米国内で移民排斥を進めているトランプが、ナイジェリアをルーツに持つ選手の判定を覆したのは、彼を選ばれたマイノリティとして政治的にも使いつづけるということなのだろう。

 そう、移民を「良い移民」と「悪い移民」に分け、俺を楽しませてくれる良い移民にはご褒美を与え、少しでも自分の意思を持って不満を口にする移民は徹底的に叩く、というサインでもあるのだ。

 それは男が、聖母としての「母・妻」と性欲処理の道具としての「娼婦」に女性を分断して支配するのと同じ構造だ。どちらになるかは男次第というわけだ。

 7月3日、東京お台場で、アメリカの建国250周年(いわゆる独立記念日)を祝う、在日米国大使館主催の祝賀イベントが開催された。花火やドローンショーが披露され、トランプと高市早苗の顔が夜空に映し出された。

 アメリカは、先住民を虐殺することで形造られてきた国だ。その血塗られた歴史は、米国で生まれた者が米国人だという生地主義を生み、移民の子孫であるトランプを大統領にした。そして、トランプは自分たち白人以外の移民を徹底的に排除する政策を取りつづけている。

 高市は、女性として生まれたのに、女性の権利を叩きつづけることでのし上がってきた。2人に共通するのは、他者の痛みに対する想像力がまったくないことだ。

 夜空に映し出された2人の姿は、二度も核攻撃を受けながら今なお国内に76の米軍基地を置き、その費用まで負担し、米兵に女性や少女がレイプされ殺されてもまともに抗議もできない植民地日本の姿を象徴している。

 まさに、日本こそ属国の鑑。

 お台場ではドローンが高市とトランプのお手々つないだ姿を映し出したが、ガザではそのドローンの下でパレスチナの子どもたちが今日も飢え、あるいは瓦礫の下に血だらけで埋まっている。たき木集めをしていた兄弟がイスラエル軍のドローンにより殺害されたのは記憶に新しい。

 自己愛が肥大した男と、男に媚を売ることでしか存在価値の示せない女のセットは、帝国主義下における植民地の完成形なのだろう。セクハラ化石男にこそ、この地上から退場のレッドカードを突きつけなければならない。

辛淑玉

(しんすご)ヘイトスピーチに抗する市民団体「のりこえねっと」共同代表。主な著書に『怒りの方法』(岩波書店)、『せっちゃんのごちそう』(NHK出版)ほか多数。

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