本稿は、シャー・へヴァー氏が、アラブ研究所(Arab Studies Institute) 発行の独立系電子ジャーナルJadaliyyaに発表した論考“Israel’s Zombie Economy”の全文訳である。原文は5回にわけて公表されたが、ここでは三回にわけて掲載する。本号では、第2回・第3回を掲載する。(翻訳=本誌編集部)
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2.イスラエル軍需産業の反革命
イスラエルの政治経済は世界で最も軍事化されたものの一つであり、軍事産業(military industry, 武器製造だけでなく、民間軍事企業や武器生産を支える物流を含む広い概念)はその重要な要素である。私の著書『イスラエル安全保障の民営化』(Hever, 2017)では、イスラエル軍需産業の民営化の過程をたどった。その民営化は、――国有化され国民的目標に沿った――イスラエル軍国主義の高度に集団主義的な要素をもって始まり、米国の軍事資金による急速な革命的変容と、軍需産業(arms industry, 兵器・弾薬・軍民両用製品の製造)内部の危機を経験した。この過程で重要だった点は、産業が新自由主義的かつ個人主義的な価値観を採り、国民の英雄主義や犠牲といった比較的古い理想よりも、専門知識と技術的優位性を優先するようになったことである。
入植者植民地主義のモデルにおいて、武装集団は国家機関の設立に先立って存在するわけで、その逆ではない(Veracini, 2010)。しかし、イスラエルは、新自由主義が入植者植民地のニーズと衝突する、最後に残された西側植民地フロンティアとして例外的存在である。2023年10月、イスラエルがガザ地区でパレスチナ人のジェノサイドを開始した後、イスラエルの軍需産業は瞬時かつ根本的に変貌を遂げた。民営化以前の価値観、実践、財政構造へと回帰したのだ。言い換えれば、私の著書で辿った流れとは正反対の方向へ向かう反革命である。
軍需産業の初期段階とその目標
イスラエルの軍需産業には、建国以前にまで遡る歴史がある。イスラエル軍事工業(IMI、エルビット・システムズ所有の軍需企業)は、後にイスラエル軍へ統合されることになるシオニスト民兵に武器を供給するために、1933年に設立された。これらの武装シオニスト集団が使用するために秘密裏に製造、密輸、違法に隠匿された武器は、1948年のナクバにおけるパレスチナの大規模な民族浄化に不可欠であった(Dana, 2024)。
武器製造は、労働シオニスト運動によって独占されていた。これは、イスラエル初代・3代首相ダヴィド・ベン=グリオン(労働シオニズムの主要政党の一つマパイの共同創設者)が、1948年、右翼シオニスト民兵に武器を海上輸送していたアルタレナ号の撃沈を命じたことが一因であった。この行為によって、武器生産は集団主義的価値観に倣うこととなった。イスラエル国防省の元首席経済学者ヤアコブ・リフシッツが指摘するように、イスラエルの軍需産業の初期段階においては、武器の販売による収益は二次的な優先事項に過ぎなかった。武器の販売と輸出による収益は、主に軍事研究に再投資された(Lifshitz, 2000)。
1973年戦争と米=イスラエルの共生
1967年戦争(第3次中東戦争)は、イスラエル軍が短期間でかなりの領土を征服することで帰結し、イスラエル軍のエリート層に高揚感、過信、傲慢さをもたらした。しかし、1973年戦争(第4次中東戦争)は、イスラエルが武器製造において自給自足できるという誤解を打ち砕いた。米国の軍事資金への依存は、1973年戦争中に始まったが、たちまちイスラエルの軍需産業の主要な特徴となった。その結果、米国の軍事資金によって、イスラエルの軍国主義は1970年代に重大な変貌を遂げた。
民間軍需企業が国営企業を超えて頭角を現し、軍需企業の経営陣は自らの役割を再定義した。「実験場」モデルは、軍事技術に科学的な雰囲気を与え、グローバル兵器市場におけるイスラエルの役割を形成するのに重要な役割を果たした。イスラエル軍は、英雄神話ではなく、技術の質によってその名声を築き上げた。社会学者ヤギル・レヴィは、この新たな戦争形態を「資本集約型戦争」と呼んだ(Levy, 2012)。「実験場」モデルは主に第2次インティファーダ(2000-2004, 後述)の時期に発展した。
1980~90年代の危機と民営化の始まり
イスラエルの軍需産業は、1980年代から90年代、米国が武器生産に課した制約への苦しい調整を皮切りに、一連の挫折に直面した。イスラエルの主力兵器開発計画「ラビ戦闘機」はロッキード・マーティン社のF– 16戦闘機を超えた性能を目指して設計されていたが、こうした制約により、土壇場で中止となった。同様の事態は、イスラエルのラファエル社が米国製のLAWミサイルに対抗するミサイルの開発を試みた際にも繰り返された。米国はまた、イスラエルが中国へ軍事技術を輸出することにも制限を課した。冷戦の終結は、世界中の国防予算の削減をもたらし、イスラエルの軍需産業にもさらなる大きな打撃を与えた。イスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)間のオスロ和平交渉は、イスラエル国内で「平和の配当」を求める声を高めた。これは、新たなエリート集団が出現して安全保障エリートと資源をめぐって競合し、国防費の削減を要求するようになったことを示していた。
国防省は、安全保障分野における公的資金のより効率的な配分のための提言策定を目的として、1991年にサダン委員会を設立した。1994年、同委員会は所見を提出し、民営化という解決策に焦点を当てた(Seidman, 2010)。
イスラエルの安全保障エリートの間では、民間部門は公共部門よりも効率的であるという新自由主義的なコンセンサスがあった。当時、イスラエルの参謀総長エフード・バラクが「撃たないものはすべて削減される」と宣言したことは有名である。しかし、バラクは、イスラエルの安全保障支出を削減するのではなく、資金を民間部門に振り向けた。この民営化の流れは、2018年に国営のイスラエル軍事工業(IMI)が民間企業のエルビット・システムズに買収されたことで頂点に達した。この買収により、エルビット・システムズは2019年までにイスラエル最大の軍需企業、世界第28位の軍需企業へ変わった(SIPRI, 2020)。
民営化に加え、イスラエルの安全保障産業は専門化を進め、サイバー戦、攻撃用ドローン、軍用車両向け先進電子システムといった特定の分野で、イスラエルの比較的優位性を確立した。
抑圧の技術
第2次インティファーダ(2000‐04年)の間、イスラエルの軍需産業は支配・監視・抑圧の技術開発に特化していた。イスラエルの安全保障エリートが、大規模監視、移動制限、人種主義的プロファイリング技術の手法を開発し、何万人もの民間警備会社の要員を訓練する一方、米国での9・11同時多発テロは、米国に新たな部門の設立を促した。2003年、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、イギリスの国防予算総額に匹敵する590億米ドルを超える予算を擁する国土安全保障省(DHS)を創設した。イスラエルの軍事・安全保障企業は、第2次インティファーダでの「経験」をすぐに活用し、占領下のパレスチナ自治区を国土安全保障製品開発の実験場として提示した。これらの企業が、新設されたDHSに製品やサービスを提供した。リース・マコールドは著書『国土安全保障の構築』の中で、国土安全保障製品の需要は世界的な現象であると論じている(Machold, 2024)。ニーブ・ゴードンは、テルアビブが間もなく国土安全保障分野における「世界の中心地」になったと主張している(Gordon, 2009)。
1973年戦争から50年間、イスラエルはもっぱら非対称戦争を遂行し、望ましくない人びとを「収容」するための兵器を開発してきた。この技術の目的は殺戮ではなく、監視と統制にある。イスラエルの軍需企業は、占領下のパレスチナ自治区でパレスチナ人に対して自社製品を配備した後、それを「実戦で実証済み」として売り込んだ。イスラエル軍が実施するあらゆる軍事作戦の後には、新技術を披露する武器見本市が開催された。イスラエル政府は研究資金を拠出し、イスラエルの諸大学との共同研究プログラムは、抑圧のための技術に科学的正当性という雰囲気を与えた。「実験場」モデルを通じた技術と科学の混同・曖昧化は、イスラエルにおいて他のどの国よりも顕著であった。
イスラエルの軍需産業が国内軍向けに生産する兵器は全体の20~30%に過ぎず、70~80%は輸出向けであるという広く引用される統計は、イスラエル軍需産業の特異性を浮き彫りにしている(Dana, 2024)。イスラエルは米国、ロシア、英国、フランス、ドイツといった世界有数の兵器輸出国ほどの輸出規模には達していないものの、2009年頃には人口一人当たりの武器輸出額で世界最高となった。
反革命
10月7日の攻撃を受けて、イスラエルはガザ地区でジェノサイド戦争を開始した。並行して行なわれたイラン、レバノン、カタール、シリア、イエメンへの攻撃で、イスラエルは主に輸入兵器を使用した。国内生産の兵器は、ジェノサイドを実行するには不十分かつ不適切であった。そのため、米国から輸入された兵器は、イスラエル軍が容赦ない爆撃作戦を継続する上で不可欠だった。特に155ミリ砲弾と1トンMk 84爆弾は、いずれも命中精度が低いことで知られている。軍事用語において、こうした兵器は「統計的兵器」(広範囲を攻撃することで、統計的な確率で目標への命中を期待)と呼ばれ、精密誘導兵器(個別目標を正確に攻撃)とは正反対のものである。ギオラ・エイランド元少将は、飢餓を戦争の兵器として利用することを公然と主張し、中世さながらの攻城戦術の採用を公然と唱えた(Hecht, 2024)。
エルビット・システムズをはじめとする大手軍需企業の2024年第34半期財務報告書によると、エルビット社の売上高は急増したが、その成長はイスラエル軍からの発注によって牽引された。同社は対応しきれないほどの受注残を抱え込み、輸出は減少した。アフリカ、アジア太平洋、ラテンアメリカ(総称してグローバル・サウス)におけるエルビット・システムズの売上は半減した。この減少は、2023年10月7日のイスラエルへの攻撃と、それに続くガザ地区でのジェノサイド的応酬の影響を反映している可能性が高い。これは、グローバル・サウス諸国の政府が、イスラエル企業との契約締結を躊躇する要因となったようだ。
Yネット(イスラエルの総合メディア)は、イスラエル製兵器の販売権を認可されたイスラエルの武器商人が、イスラエルと公然と武器取引を行なっていない国々で、イスラエル軍向けの弾薬、資材、部品を調達するという新たな役割を担っていることを明らかにした(Zitun, 2024)。こうした武器商人は事実上、イスラエル建国以前の1940年代にシオニスト民兵組織のために武器を調達していたシオニスト武器密輸業者という役割に回帰した。国内生産に重点を移すことは、専門化政策からの転換であり、米国の軍需産業を遠ざける可能性がある。イスラエルの国会議員アミット・ハレビは、米国の軍事資金援助がイスラエルに及ぼす「害」について議論を開始した。
3.イスラエル社会の部族化
「国民国家」の定義は、国民の構成員と国家の市民が同一集団である国家である。アパルトヘイト国家であるイスラエルは、決して国民国家ではなかった。つまり、その政治構造全体は、ユダヤ民族とイスラエル国家の市民が別個の集団で、重複する部分を持ちながらも、両方のカテゴリーに属する者が支配階級であるべきだという考えを前提としている。したがって、イスラエル議会で圧倒的多数で可決された2018年7月基本法が「国民国家法」と名付けられているのは皮肉である。この法律は、その名称が示唆する内容とは正反対のことを規定している。この法律は、イスラエルを国民国家と定義するどころか、イスラエルはユダヤ民族に属し、非ユダヤ系市民は個人の市民権しか認められず、集団的権利は一切認められないと宣言することで、イスラエル国家の人種差別的・植民地主義的性格を露呈している。
流動的な特権体制
アパルトヘイトは自由民主主義の概念とは相容れない。だが、アパルトヘイトに対する政治的批判でたいてい挙げられる理由は、イスラエルのような民族ナショナリズム国家が、市民や統治下に置かれた人びとに平等な権利を与えていないという点である。「平等な権利」という言葉は、アパルトヘイト体制下では権利を享受する人びともいれば享受しない人びともいる、あるいは一方の人びとが他方の人びとよりも多くの権利を享受しているという誤解を招く。しかし、人権宣言や米国独立宣言(自由民主主義について現代の概念を定義する文書)で定義されている権利は、定義上不可侵である。イスラエルは、ユダヤ系イスラエル人であっても、誰にも不可侵の権利を与えておらず、特権しか与えていない。特権は階層化されており、予測不可能である。イスラエルにおける人種差別的な言説では、パレスチナ系イスラエル市民が民間市場や公職で要職に就くことを「許される」ならば、そのことに「感謝すべき」であると、躊躇いもなく語られるのがしばしばである。言い換えれば、それは彼らの権利ではなく、特権に過ぎない。
特権は不安定なものであるため、個人も集団もセクト主義的な論理に基づいて、自らの特権を守ろうと争う。このセクト主義的な論理は、例えば、ネタニヤフの極右政権に対する抗議活動の主催者が、パレスチナ人にとって抗議活動に3加しにくい空間を生み出し、パレスチナの旗の掲揚を禁止した理由を説明するものである。
新型コロナウイルス危機の間、ネタニヤフは特権体制を利用して、イスラエル国民にワクチン接種を促した。彼はイスラエルがヨルダン川西岸地区とガザ地区のパレスチナ人にはワクチンを提供しないと発表した(この政策はイスラエル国民の健康をも危険にさらすものであったにもかかわらず)。そして最初のワクチン接種を確保し、その様子をテレビ生中継で公開した。こうして、ネタニヤフはワクチンを特権、つまり厳格な階層秩序において自らの地位を示すステータスシンボルへと変えたのである。イスラエルは、国民一人当たりのワクチン接種率で言うと、数週間のうちに世界で最もワクチン接種率の高い国となった。しかし、ワクチン接種の特権に対する熱狂が冷め始めると、イスラエルはすぐにアラブ首長国連邦に追い抜かれ、その後も差は広がっていった。
部族化に伴う政治危機
イスラエル社会の部族的な性格については、ルーベン・リブリン元大統領が2015年の有名な演説で言及した。その演説の中で彼は「4つの部族」、すなわち「イスラエル系アラブ人」(イスラエル国籍を持つパレスチナ人を指す呼称で、パレスチナ人としてのアイデンティティを覆い隠すとの批判がある)、超正統派ユダヤ教徒、ミズラヒム(アラブ諸国またはイスラム諸国出身のユダヤ人)、アシュケナジム(ヨーロッパ系ユダヤ人)の和解を呼びかけた。彼の演説は、入植者によるパレスチナへの移住を通じて築かれた入植者植民地であるイスラエルにおいて、「人種のるつぼ」という幻想が崩れつつあることを示す兆候であった(iCenter, 2025)。
※編集部注:実際のリブリン演説における「4つの部族」は、世俗派ユダヤ人、宗教的シオニスト(正統派)、超正統派(ハレディ)、アラブ系住民であるが、編集部の問い合わせに対し著者は、リブリンによる「世俗派ユダヤ人」という区分は実態を反映しておらず、「世俗派」を自称するユダヤ人のほとんどはアシュケナジムである、と述べている。
実際、リブリンの部族主義的な枠組みは、国民と部族の違いを根本的に誤解している。部族は親しい関係に基づく対面的な共同体であるのに対し、国民は想像上の共同体である。リブリンは部族を国民の構成要素と言ったが、パレスチナ人がイスラエルの国民共同体の一部であるという示唆は、国民国家法が証明したように、シオニズムにも、先住民パレスチナ人自身にも受け入れられていない。
この演説は2014年という流血の年の後(2015年)に行なわれた。2014年、イスラエルは3人の入植者が拉致・殺害されたことを受けて、ヨルダン川西岸地区へ報復的な攻撃を開始した。さらに翌年、占領下のヨルダン川西岸のドゥマ村ではダワブシェ一家が宗教的シオニスト入植者によって焼き殺され、東エルサレムの16歳のムハンマド・アブ=フデイルも超正統派入植者によって焼き殺されるなど、パレスチナ人に対する個々の殺人行為が蔓延した。これに続いて、イスラエルによるガザ地区侵攻が51日間続いた。国家が正当な暴力を規定する独占的権限を失い、復讐に駆り立てられた社会は、崩壊寸前の社会であり、それゆえリブリンはあの演説を行なったのである。
実際、部族は4つどころではない。リブリンが言及したどの集団も均質ではない。アパルトヘイトは特権と地位に基づく制度であり、その性質上、階層秩序がますます複雑化する傾向がある。どの連立政権も任期を全うできなかったイスラエルの政治危機は、2014年に始まった。宗教的シオニストと世俗政党が超正統派の徴兵を主要な公約に掲げたため、超正統派による徴兵反対の大規模な抗議運動が発生し、その最中で政府が崩壊した。しかし、どちらの陣営も占領の終結やイスラエルのアパルトヘイト制度の廃止について議論しようとはしなかった。
ネタニヤフは、その政治危機の間、次々に臨時の連立政権を樹立することで権力を維持した。毎回、異なる政党が組み合わせられたが、それらの政党は権力獲得の約束と複雑な階層秩序における地位向上の機会に惹かれた。しかし、彼はこうしたセクト主義的集団と共通の基盤を見出せず、やがて危機に陥った。2021~22年の短期間、8つの政党と2人の首相が交代で務める連立政権が樹立されたが、彼らを結びつけていたのはネタニヤフへの個人的な反対だけだった。
ラピドとベネットが率いたいわゆる「変革政権」は、イスラム政党からイスラム嫌悪的で半ファシスト的な政党「イスラエルは我らの故郷」までを含む連立政権であったため、何も変えることができなかった。野党リクード党は、パレスチナ人に対してのみ家族再統合の権利を否定するイスラエルの人種差別的な緊急令の更新に反対票を投じることを決定した。「変革政府」は緊急令を維持するのに十分な票をなんとか集めたが、その後すぐに崩壊した。
想像上の共同体の瓦解
こうした政治的な駆け引きはすべて、単純な政治的真実から目を背けようとする必死の試みである。すなわち、ユダヤ・ナショナリズムが危機に陥るなか、それが部族へと分裂していることは、想像上の共同体が、激しく対立するセクト主義的な対面的共同体へと崩壊していることを示している。一方、パレスチナのナショナルな共同体は依然として維持されている。イスラエルのアパルトヘイト的な選挙制度は、シオニスト政党が常にイスラエル議会で過半数を確保できるように設計されていたが、内部分裂のため、シオニスト連立政権は長くは安定しない。パレスチナ人の自国における民族自決権を尊重するという選択肢は、シオニスト・ユダヤ人にとって恐ろしいことなのである。
部族への分裂は、イスラエル軍において最も顕著に見られる。2016年、ヘブロンでイスラエル兵エロル・アザリアがアブデル・ファタハ・アル゠シャリーフを殺害した様子は、ベツェレム(B’Tselem, イスラエルの人権団体)のカメラで撮影された。この事件は何千件ものイスラエル兵によるパレスチナ人殺害のうちの一件に過ぎないが、この殺人が特に重要だったのは、アザリアが裁判でパレスチナ人を殺害するのは自分の権利(もっとも、彼が意味していたのは「特権」)であり、アシュケナジムの戦闘機パイロットのほぼ全員が、パレスチナ人を殺害しても裁判にかけられることはないと主張したからである。彼は、命令に従うだけで何の報酬も得られないという不当に扱われているイスラエル軍内の派閥の代表者だったため、イスラエル国民と軍部の大部分からも支持されていた。
イスラエルの教授で元中佐のヤギル・レヴィは、イスラエル軍内部で形成された階層秩序に関する著書を数冊執筆した。中でも『イスラエルの死の階層秩序』(Levy, 2012)は、軍が兵士の命を民族的・宗教的アイデンティティに基づいてどのように異なる価値で評価しているか、その傾向が時間の経過とともにいかに社会の分断を招いているかを論じている。レヴィは、(ニュースサイトの)972マガジンに掲載された2023年の画期的な記事で、イスラエル軍は「高度化された軍」と「粗暴な軍」の二つに分裂したと主張した。この分裂は部隊ごとに現れており、空軍、無人機動部隊、情報部隊、医療部隊は前者に属し、歩兵、砲兵、機甲部隊は後者に属する。「高度化された」軍は、主にアシュケナジム、世俗派ユダヤ人、中流階級の教育を受けたユダヤ人で構成され、リベラル・シオニズムや労働党と政治的に結びついている。「粗暴な」軍は、主にミズラヒムで構成され、宗教的かつ低所得層、教育水準が低く、政治的には右派と結びついている。
現状、18歳になったイスラエル人のうち、兵役に徴兵されるのは半数以下である。「部族」全体が兵役を免除されている場合(主にイスラム教徒、宗教的な女性、超正統派)、兵役を避けたいイスラエル人にとって、徴兵を逃れることは社会的にも技術的にも容易になっている。2010年、軍人事部は、18歳で徴兵されるイスラエル人はわずか48%であると認めた。2023年の数字は不明である。私は同年のある記事で前記のレヴィの分析に言及し、軍の二分化が、効果的な軍事力としての機能を阻害していると主張した。また、2023年2月にフワラで起きたポグロムは、イスラエル軍が怒り狂った暴徒のような精神状態へと陥りつつある兆候である、と私は述べた。つまり、統制が取れず、軍事規律を欠いた状態である(Hever, 2023)。
イスラエルがガザ地区でジェノサイド作戦を開始した後、この転換は完了した。正規兵、予備役、義務兵、志願兵の区別は従来とは逆転した。兵士は宗教的・政治的所属を示すシンボルを制服に装飾した(これは厳密には違法である、New Arab Staff, 2024)。ジェノサイドの間、兵士は不服従で処罰されることも、調査されることさえほとんどなかった。兵士が残虐行為を行なったり、脱走したりして命令に背いた場合でも、軍司令部は見て見ぬふりをした。部隊を離れることを申し出た兵士は、上官から「戦友を見捨てるのか」と感情的に脅されたが、処罰されることはなかった。
緊張は2024年7月に頂点に達した。イスラエルのメディアが、ナカブにあるスデ・テイマン拘禁施設が、ガザ出身のパレスチナ人囚人に対して性的拷問を含む拷問を行なっている場所であることを暴露したのである。極右の国会議員や閣僚に煽動され、容疑をかけられた看守の逮捕を阻止するために民兵組織が動員された。イスラエルで最も影響力のあるジャーナリスト、アミット・セガルは、パレスチナ人へのレイプにおける問題は「発覚すること」だと冗談を言った(Morag, 2024)。 2025年10月、主任軍事検察官イファト・トメル=イェルシャルミが、看守への捜査への世論の支持を得るため、囚人虐待の映像を報道機関にリークしていたことが明らかになると、世論は彼女を「裏切り者」と非難した。彼女は、イスラエルがガザで犯した戦争犯罪や人道に対する罪へのいかなる捜査も控えていたにもかかわらず、である。トメル゠イェルシャルミは辞任し、後に逮捕された。ヤギル・レヴィは、彼女の経歴(「高度化された軍」所属、すなわちアシュケナジム、世俗的、高学歴)が、主任軍事検察官としての権威を損なったと指摘した(Levy, 2025)。
イスラエルの国家安全保障大臣イタマル・ベン゠グヴィルは、武装した入植者民兵組織である「国家警備隊」を創設することで、イスラエル警察を弱体化させ、ジェノサイドに対する抗議が激しい暴力で鎮圧される恐怖の環境を作り出した。イスラエル国内での前例のないレベルの弾圧は、パレスチナ市民やその他の被差別マイノリティだけでなく、特権階級のエリート層も標的となっている。ユダヤ人部族間の内部分裂は、猛威を振るう極右勢力に対する実質的な抵抗を妨げている。極右の暴力は入植者植民地そのものを破壊しているにもかかわらず、である。 (つづく)
【主要参考文献】
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