虚構の「働きたい改革」――高市政権が目指す裁量労働制拡大の危険性

佐々木 亮(旬報法律事務所弁護士。日本労働弁護団幹事長)
2026/08/11
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1 はじめに

 2026年、我が国の労働法制は危機にさらされている。というのも、高市政権発足後、高市総理から、労働法制の労働時間規制に対する緩和の圧力が非常に強まっているからである。

 周知のとおり、高市政権は、2月の総選挙を経て、衆議院において盤石の議席数を確保した。自民党一党だけでも3分の2を超え、連立与党の維新を入れれば、政権与党の議席占有率は空前絶後の数値となる。

 高市総理は、自民党総裁選で勝利した際、「働いて、働いて、働いて、働いて、働いてまいります」と述べ、「ワークライフバランスを捨てる」とも明言し、さらに「馬車馬」のように働くと高らかに宣言した。自身のやる気を表しただけとの声も聴くが、政治家が選ぶ言葉には意味が込められている。これらの言葉の選択は、明らかに我が国の労働時間規制を意識したものであり、その破壊を目指すことが含意されている。

 本稿は、そうした高市政権が目指す「裁量労働制」の拡大について、その危険性と現況を概説するものである。

 2 これまでの主な動き

 表にあるとおり、2023年3月から「研究会」が設置され労働基準法の改正に向けて準備が進められていた。労働法では、ある程度の規模の法改正の場合は、学者等からなる「研究会」が設置され、そこで「報告書」が出され、それを踏まえて労働政策審議会(労政審)で議論され、その後法案となり国会に上程されるという過程がある。

 表のうち、2023年3月の「新しい時代の働き方に関する研究会」(働き方研)、2024年1月の「労働基準関係法制研究会」(労基研)が、この「研究会」に該当する。

 これらの研究会は、それぞれ報告書を出しており、そのうち労基研報告書では、労働基準法の改正にも言及している。そして、これを踏まえて労政審における議論もなされ、いったん改正内容が概ね確定したところであった。働き方研報告書では、労働時間規制の緩和に踏み込むような記載が随所にあったものの、労基研報告書においてその点はある程度後ろに回され、これを踏まえた労政審の議論を前提にすると、労働基準法(労基法)が改正されるとしても、改悪部分はそれほど多くなく、良くなる部分もそれなりにあるという見通しであった。法案の提出は2026年1月からの通常国会で、筆者もどのような法案になるのか待っていたところであった。

 ところが、2025年10月の高市政権発足でこの流れが大きく変わる。高市総理は、真っ先に厚労大臣に労働時間規制の緩和を命じている。これは先の労基研報告書では、規制緩和の方向での改正については言及されておらず、唐突な指示であった。しかも、労働時間規制自体は、2018年の働き方改革関連法の際に、ようやく法律上の上限が設けられたものであり、これを10年も待たずに緩和するのはどう考えても無理があるし、そもそも経団連などの経営者団体もストレートにこれを求めてはいない。当然ながら過労死労働者の遺族団体などから強い批判がなされることになる。ここは推測であるが、高市総理は労働法制に明るくなく、当時のブレーンにも詳しい者はいなかったのではないかと思われる。そのため、労働時間規制の緩和という言葉の響きにとらわれて、安易な指示を厚労大臣に行なったのではないだろうか。その後、労働時間規制の緩和はフェードアウトし、本稿のテーマである裁量労働制の対象者拡大に置き換わるが、当初は上限規制を緩和しようとしていたことは、高市政権の目指す労働法制の在り方を考える上で、忘れてはならない一事である。

 さて、その後、側近の者が耳打ちしたのか否かは分からないが、高市政権の労働法制の規制緩和は、裁量労働制の適用対象者拡大に矛先が向くこととなった。

3 裁量労働制は何が問題か

佐々木 亮

弁護士。1999年東京都立大学法学部卒業。2003年弁護士登録。旬報法律事務所。日本労働弁護団幹事長。著書に『武器としての労働法』(KADOKAWA)、『雇止め・無期転換の法律実務』(旬報社)など。

2026年9月号(最新号)

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