【ナンシー・オケイル氏インタビュー】市民社会を強化せよ――トランプ政治に対抗するアジェンダを

ナンシー・オケイル(米シンクタンク 国際政治センター(CIP)代表)。聞き手:猿田佐世
2025/05/08


ナンシー・オケイル(Nancy Okail)
米シンクタンク「国際政治センター(CIP)」代表。専門は人権、平和、安全保障。主に中東の諸国間の力関係に焦点をあて、各地で講演を行なっている。
インタビュー聞き手:猿田佐世(新外交イニシアティブ(ND)代表・弁護士(日本・米NY州))


猿田佐世(以下、猿田) ナンシーさんは、今回の訪日前に台湾での国際会議「ハリファックス国際安全保障フォーラム」に参加したそうですね。その時の感想を少しお聞かせください。インド・太平洋地域、狭義には中国と米国、中国と日本、そして台湾の現状をどのように見ておられますか? 

ナンシー・オケイル(以下、オケイル)フォーラムは、台湾がいまの国際情勢の中でどのような懸念を有し、どんな戦略を取るべきと考えているのかを理解するために、非常に有意義な機会だったと思います。

 台湾が抱いている懸念は、トランプ大統領が台湾にどのような外交政策をとるのかが不透明なために生じる不安感からきています。トランプ氏はすでに台湾に関していくつかの政策をほのめかし、台湾に対して防衛の対価を支払えと主張しています。

 しかし、現在の動きは、バイデン政権の政策の継続だと言わざるを得ません。外見は変わっているかもしれませんが、バイデン政権において「大国間競争」という枠組みが採用され、それが中東政策も含めあらゆる外交政策の指針となり、すべてが中国包囲網に結びつくものとなりました。

 この大国間競争の枠組みは、相互的協力やその必要性についての理解にもとづくものではなく、より敵対的な立場に立つものです。戦争が実際に起きないとしても、台湾の軍事化やその支援、武器供与といった約束事が、時にはシグナルとして、また時には実際の軍事力である「武器」として強化されてきました。そうした中で緊張状態が作り出され、安定性が脆弱になる可能性が高まっています。ですから、私の団体「CIP」と猿田さんの団体「新外交イニシアティブ」が一緒に取り組んで実現した、米国と日本のプログレッシブ議員連盟による、外交で台湾有事を避けるべきとの日米共同書簡は極めて重要です。なぜなら、それが今後の方向性であるべきものだからです。

 トランプ氏の考えは、「アメリカは世界中の国々をただ守るつもりはない。守ってほしければ費用を負担せよ」というものです。つまり、台湾もウクライナも防衛の対価を負担しなければならない、と。それに対して台湾はすでに反応しています。先日の国際安全保障フォーラムには頼清徳総統も蔡英文前総統も出席していましたが、頼総統はそこで、台湾の防衛費をGDPの3%以上に引き上げる方針であることを改めて表明していました。

 多くの国はもはやアメリカを以前のように信頼できる同盟国・友好国とは見なしていません。同時に、各国がそれぞれ軍事費を増額し、防衛力を強化していくことが解決策なのかと問われれば、そうも思いません。ある国が防衛費を増額しはじめれば、他国の軍拡も正当化されてしまうからです。日本にいたっては、トランプ大統領が防衛予算増額の圧力をかけるまでもなく、軍事費の増額を進めています。このように今、世界では軍拡競争が進んでいます。

 台湾では中国の影響力拡大が大きな懸念となっています。中国は自国や台湾についての偽情報を拡散し、誤ったイメージを植え付けようとしています。さらに、物心両面で、台湾の若者の中国留学をサポートし、奨学金援助や中国での就職支援もしようとしています。

 その対策として、ソーシャルメディアや情報をある程度コントロールすべきという意見もあります。しかし私は、それが解決策だとは思いません。プロパガンダというものは、常に人々の不満を煽るものです。プロパガンダを止めることは難しいでしょう。解決策は、プロパガンダを禁止することではなく、プロパガンダがつけ込む不満そのものを解決することです。

トランプ氏と中国

猿田佐世

(さるた・さよ)新外交イニシアティブ(ND)代表・弁護士(日本・米NY州)。著書に『自発的対米従属』(角川書店)、『新しい日米外交を切り拓く』(集英社)、『米中の狭間を生き抜く』(かもがわ出版)、『世界のなかの日米地位協定』(共著、田畑ブックレット)、『戦争ではなく平和の準備を』(共著、地平社)など・

2025年6月号(最新号)

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