維新政治と大阪市民――これからの課題は何か

武田かおり(NPO法人AMネット事務局長)
2024/12/05

 特集「大阪デモクラシー 維新政治の先へ


大阪府内の市民力

 2008年の橋下徹大阪府知事誕生以降、2015年と2020年の二度にわたる「大阪都構想」に住民投票で反対する活動を経て、大阪府内の市民力は確実に上がった。府・市議員の名前や特徴を覚えて応援したり、日常会話の中で具体的な政策を批判したり、住民自治の重要性を語る市民が多数いる。大阪都構想が大阪市を廃止し、4つの特別区という自治体にする案だったことから、都道府県と市町村それぞれの役割を理解している市民も多い。「二度も大阪市廃止を止めることができたのは自分たちが動いたからだ」という実感を、動いた皆が持っている。つまり、成功体験を持つ市民が多いのだ。

 大阪の多くの市民が地方自治に興味関心を持つようになったのは、間違いなく維新のおかげだろう。住民だけでなく、それまで国政や国際的な課題に取り組んできた市民団体も、それぞれの分野の視点をもって大阪の問題に注視するようになった。筆者も国際協力の視点から水道民営化の問題に長年取り組んできたが、大阪市が2013年に水道民営化案を出した(2017年廃案)ことがきっかけで大阪問題に取り組むようになった一人だ。

 自分でチラシを作れる人が増えた。拡声器を自費で購入し、有志で街頭宣伝できる人も多い。署名では、カジノの是非を問う府民の住民投票を求める直接請求署名運動が立ち上がり、大阪府全域で法定数を大きく上回る21万筆を集めた。

 陳情書や請願書、パブリック・コメント等で自分たちの意見を伝える手段も知り、活用してきた。たとえば、大阪都構想の一回目の住民投票は「特別区の設置」としか表記がなく、「大阪市の廃止」を知らない市民が多かった。そのため、「大阪市がなくなる」「なくならない」でもめていたのだ(松井一郎府知事らが「大阪市はなくならない」と説明していたため)。しかし陳情書が採択されたおかげで、二回目の住民投票では「大阪市廃止」と明記された。大阪市のポスターや投票用紙に「大阪市廃止」と書かれたことが最大の勝利要因だったと私は考えている。

 大阪万博についても、環境アセスメントとしては異例の118件の意見書が提出された。結果、博覧会協会に対し、大阪市環境影響評価専門委員会は繰り返し対策を求め、鳥類の環境を保全・創出するよう答申を出し、市長意見に反映された。市長意見を博覧会協会が守るのか、万博後の自然再生がなされるのか。環境5団体(日本自然保護協会、世界自然保護基金ジャパン、日本野鳥の会、日本野鳥の会大阪支部、大阪自然環境保全協会)と共同検討が行なわれている最中だ。

 情報公開請求で府市に事実確認し、要点をまとめてSNSで公開する市民も増えた。同時に記者に情報提供し、多くの記事になっている。動画もテレビの切り取りだけでなく、現場に足を運んで動画を発信、それを見た有志が字幕をつける、該当部分だけを切り取るなど、草の根での協力が進んでいる。

 住民監査請求も数多く出されている。“大阪市長や市職員等に、違法又は不当な財務会計上の行為又は怠る事実があり「市の財政に損害を与える場合」”に対象が限定されるものの、SNSで話題になった多くの問題が監査請求されている。

 2023年の主だった事例を4つ紹介する。大阪湾で死んだクジラ、淀ちゃんの処理費用が当初見積額の2倍以上に膨らんだ問題で、松井氏が「海に返してあげたい」と発言したことから、もっとも難易度が高く高額の処理方法となり、維新関係者に近い企業の言い値で委託、損害を与えた件(監査結果:市に再調査を勧告。その後、市民団体が提訴)や、切る必要のない樹木伐採の支出執行停止(監査結果:却下)、大阪市立高校22校(不動産価値1500億円)の大阪府への無償譲渡(監査結果:却下。その後、提訴するも一審二審とも敗訴、最高裁へ)、違法な不動産鑑定で土地賃料が不当に安いとして、IR用地の賃貸差し止め(監査結果:合議不調。3団体が提訴)だ。

 住民監査請求を判断する監査委員は4名(うち弁護士1名、市議2人)で、必ず1人は維新の市議が加わるため、勧告が出るケースはまれだ。だが、裁判よりハードルは低い。結果が不服であれば、裁判を起こせる。裁判になれば記事となり、問題が知られるきっかけにもなる。現在、カジノ訴訟も住民監査請求を経て3つの市民団体が提訴している。

 だが、これだけ市民が頑張っても、まだまだ足りない。手が届かない。ここでは、維新の会が大阪市民にとってどのような政党なのかを振り返りつつ、これからの大阪の住民自治を考えてみたい。

維新の会の成り立ちとIRカジノ・万博

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武田かおり

(たけだ・かおり)NPO法人AMネット事務局長。2001年、持続可能な経済と社会のしくみを目指し、AMネットで活動を始める。世界中の水道民営化の失敗を知る団体として、大阪市の水道民営化プランへの問題提起を行ない、現在、大阪の多くのテーマで他団体と協働し活動。

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