【連載】ルポ 最貧国と気候正義(最終回)消された村を造り直す

井田徹治(共同通信社編集委員兼論説委員)
2025/05/08
新たに建設された学校の教室で教師の話に笑顔を見せるギッテの若者たち(筆者撮影)

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一夜にして消された村

 「突然、4人の男がやってきて、あそこで自分の体に巻き付けた爆弾を爆発させた。4人の村人が死に、多くの人がけがをした」

 熱帯の強い日差しの下、53歳になるというアジアエ・ガルバが、大きな身ぶりで村の広場を指さしながら、2016年の恐怖の瞬間を早口で語る。「村人は皆、別の村に逃げ込んだ。食べ物も生活の手段もなくしたが、村に戻ろうという人はいなかった」。

 アフリカ中部の最貧国、チャドの西部、アジアエが生まれ育ったチャド湖のほとりの村、ギッテはこうして、一夜にして無人の地と化した。

 ギッテの人々も、チャド湖周辺の多くの村の人と同様に、湖がもたらす自然の恵みに大きく依存してきた。だが、ここも2010年ごろから周辺で活発化したイスラム過激派ボコ・ハラムによるテロ活動の被害から無縁ではいられず、貧困とテロの悪循環に飲み込まれた。

 追っ手を恐れ、夫や子どもなど12人の家族で近くの村から村へと渡り歩くアジアエの暮らしが続いた。遠くの井戸まで行って水をくんで帰るのが何よりつらく、国際援助でもらう食べ物だけが頼りだったという。

再興をめざす

 2024年11月8日、国連のセキュリティサーベイの結果、再び、チャド湖周辺に取材に出られることになった。予定していた訪問地の一つはリスクが大きいとして訪問できないことになったが、訪問がかなったギッテは、国連などが取り組むチャド湖エリアの安定化プロジェクトの中で重要な位置を占める村だ。沿岸からほんの少しの水域とはいえ、チャド湖に舟で乗り出し、漁業の様子を取材することも予定されていた。

 洪水の影響で通常、使っている道は通れなくなり、途中までバイクで迎えに来てくれた男性のあとについて、草原や畑の中の道なき道を車で行くこと約30分。ようやく目指すギッテにたどり着いた。

井田徹治

(いだ・てつじ)共同通信社編集委員兼論説委員。環境・開発問題をライフワークとして世界各国での環境破壊や貧困の現場、問題の解決に取り組む人々の姿を報告してきた。著書に『生物多様性とは何か』(岩波新書)ほか。

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