日本の平和主義の終焉――なぜ戦争から学べないのか

三上智恵(ジャーナリスト、映画監督)
2025/07/06

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「私たちは戦争したくありませんので、その準備は今すぐやめてください」と要求することは、今の私たちにはまだ可能だ。だが、1年後も同じことが言えるだろうか?――


 「3月にアメリカのヘグセス国防長官と日本の中谷防衛大臣が会談して『自衛隊は戦争の最前線に立つ』と国防長官が明言し、中谷大臣はこの会談は成功だったと言いましたね。防衛省の皆さん、皆さんがやっていること、どういうことかわかりますか。自衛隊員の命をアメリカに売り渡したんだよ、お前たち。あなたたちは事務職で前線に立たないかもしれないけど、これはやめてください。自衛隊を売り渡したようなものなんですよ。自衛隊は今まで専守防衛に徹して国民から信頼されてきた。しかし今は、アメリカのために戦争する軍隊に変わってしまったんですよ。少なくとも元のように、最低、専守防衛には戻してください。内閣府、および外務省も、日本が戦争に協力することはやめてください!」

 非常に強い物言いだった。聞いているスーツ姿の各省庁の役人たちは、凍りついたように動かなかった。これは6月6日に衆議院議員会館で行なわれた「戦争止めよう! 沖縄・西日本ネットワーク」(以後、沖西ネット)という団体の政府交渉の一場面だ。発言者は共同代表で、沖縄で遺骨収集ボランティアをしている具志堅隆松さん。彼を描いたドキュメンタリーはすでに10作を超え、活動はよく知られた人なので、もはや説明は野暮だが、5月に若い日本軍兵士の全身遺骨を糸満市で発掘したばかりの具志堅さんにとっては、なぜ戦後処理も終わらぬうちに新たな戦没者を出すような国になったのかと怒りが収まらないのだ。

軍事化に対する関心・当事者性の低さ

三上智恵

みかみ・ちえ ジャーナリスト、映画監督。東京生まれ。1987年毎日放送にアナウンサーとして入社。95年琉球朝日放送の開局時に沖縄へ移住。映画作品に『標的の村』『沖縄スパイ戦史』など。著書に『証言・沖縄スパイ戦史』『戦雲 要塞化する沖縄、島々の記録』(ともに集英社新書)など。

2025年8月号(最新号)

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