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デンマークには、「学生(子ども、若者)に関する法制度や予算、仕組みを大きく変える時に、この団体の合意を取らないと進められない」と政治家や省庁、メディアから認識されている団体がある。それが全国生徒会(学生自治会)である。後半に詳しく述べるが、義務教育課程(日本の小・中学校に当たる)、高校、職業学校、大学など学校種別ごとに存在する。それぞれの団体に会長や副会長、会計などがおり、全国の生徒・学生の代表の立場で発言することもある。
日本でも、産業や労働に関する政策であれば、そのような「業界団体」「圧力団体」と位置付けられる団体が思いつく。しかし、子どもや若者の政策についてはどうだろう? PTAのように親の組織は全国組織化されていることもあるが、子どもや若者の代表性を確保した団体は存在しない。子どもや若者の代表性を備えた組織とはどういうことだろうか?
声が国までつながる構造
全国生徒会(学生自治会)は、日本でいえば各学校にある「生徒会」の全国連合会と喩えるのが一番近い。しかし、デンマークの全国生徒会が特徴的なのは、その積み上げ式の構造である。まずクラスから2人の代表が選ばれ、その代表たちの中から学校全体の代表が決まる。この代表者は日本でいえば生徒会長にあたる。そして、この学校代表から地域代表が、さらに地域代表から国の代表までが選ばれていく。つまり、自分がクラスで選んだ代表者が、幾層ものネットワークを通じて、国の代表にまで確かにつながっているのだ。
この構造があることで、学校で何かおかしいことが起きたとき、その議論を地域、さらには国のレベルまで押し上げることができる。逆に、国の制度や教育政策に対して、若者たちがまとまって声を上げることで、現実に影響を与えることもできる。冒頭に「この団体との合意を取らないと政策を進められない」と紹介したのは、もしこの全国生徒会が反発すると、多くの学校でボイコットが企画されるからである。子どもたちが学校に来て授業を受けなければ学校は成立しない。それを、デンマークの子ども・若者はよく知っている。
私のデンマーク留学などを通じて知り合った友人の中には、この生徒会の活動に熱心に参加し、それが現在のキャリアや政治活動にも影響を与えている人たちが多くいる。教育政策や学校運営に抗議したり交渉したりするために、学校のボイコットや大規模なデモ、署名集めや提言などを企画・参加した経験について、これまで多く聞いてきた。
例えば、私の同年代のデンマーク人、つまり現在20代後半の人たちにとって、高校生の時に全国的に呼びかけられたボイコットと大規模なデモを経験したことは、政治的にアクティブに活動するようになったきっかけとしてよく語られる。2015年当時、中道右派の政権は教育予算を毎年2%削減する方針を打ち出した。それは教員数の削減や、学生1人当たりにかけられる教育の質などに直結する話で、授業のコマ数が減ったり、少人数教育が進まなくなったりするなど、高校生の学校生活にも悪影響を与えることが懸念された。それに抗議するために、高校生たちは自分たちの学校での授業ボイコットを全国で連帯して計画し、街頭へデモに繰り出したそうなのだ。
「そんなことをしたら学校に怒られたのでは?」と心配する私に、友人は、教員数の削減という学校の先生の雇用問題が絡んでいたため、裏では労働組合活動に熱心な先生たちともタッグを組んでいた、と懐かしそうに話してくれた。その様子が、とても印象的であった。ちなみに、この一連の予算削減方針は、数年にわたる全国的な抗議を経て、2019年に左派政権へと政権交代したことで撤回された。
2024年、NO YOUTH NO JAPANでは、高校生の時にこの活動を担った一人でもあったフレデリック・デーラーさんを日本に招待した。彼は高校生に向けて、「必ずしも意見が聞き入れられるわけではないが、きちんと影響をもたらす。その結果、自分たちが通う学校を自分たちがつくっているのだという感覚を持つことができる。そしてそれが、日常や教育を良くしたいという意欲を生む」と語っていた。
「声を上げれば、それがちゃんと問題として受け止められる」という成功体験は、自分の意見が通った時にのみ育まれるわけではない。自分の声が実際に届くという感覚(agency)を、子どもたち自身が日常の中で感じ取れることこそが重要なのである。ちなみにフレデリックさんは、高校生でそのような経験をした後、21歳の時に左派政党の一つである赤緑連合の青年部を仲間たちと立ち上げ、代表を担った。現在は赤緑連合の広報を担っており、今年の選挙での勝利にも貢献した。学生時代からのこの感覚こそが、フレデリックさんのような若者を政治へと押し出していく原動力になっている。
子どもによる、子どものための組織
2023年、デンマークに視察に行った際、義務教育段階の子どもたちを全国で束ねるDanske Skoleelever(DSE、デンマーク生徒会連合会)を訪れた。デンマークには日本のような中学校が独立して存在せず、7歳から16歳までを一貫して教育する folkeskole(フォルケスコーレ)という義務教育制度がある。DSEは、このフォルケスコーレの生徒会を全国規模でつなぐ組織だ。ちなみに、高校生にはDGSという別の全国組織があり、さらに職業学校や大学にもそれぞれの連合が存在する。教育段階ごとに、下から上までつながる自治の回路が用意されているのである。
DSEは、親でもなく、先生でもなく、子どもの目線を代弁するアドボカシー団体である。例えばコロナ禍では、学校の突然のオンライン化などについて、当事者である子どもたちの意見を集め、メディアを通じて社会に発信するなどしたらしい。また、地域ごとの生徒会を上位でつなぎ、運営のアドバイスを行なう役割も担っている。
年に一度のナショナルミーティングでは、全国の各地域から生徒会代表が集まり、投票によって会長や副会長、会計などを選出する。そこは、自分たちの代表を自分たちで選出するだけでなく、子どもたち自身がその年に取り組むべき課題を設定する場でもある。例えば「汗をかく運動の授業の後にシャワーを浴びられるようにしたい」「もっと学校のおやつを充実させたい」など、大人からしたらちょっとしたこと、もしくは実現の難しさから俎上にあげない判断をするような意見がたくさん出る。すべてが実現に向かうわけではないが、学校生活を良くするために政策という観点で何が必要かを、小学生・中学生の年代から自然と考えるようになる機会が用意されていた。
DSEの事務所を訪れて驚いたのは、その運営規模である。各学校は参加費を払っている上、国の助成金制度から1億円ほどの補助がある。成人の15人ほどのフルタイムスタッフが雇われているが、意思決定の主体はあくまで子どもであり、採用の面接もDSEのリーダーである子どもたちが行なう。その様子に驚いたが、「子どもの声を届ける」には、こうした仕組みこそが不可欠なのであろう。
この活動は、このような大人たちの支援を受けつつも、会長をはじめとする生徒たちが主導して行なっている。しかし、彼らは普段、学校に通う生徒たちである。すべての活動を彼らだけで行なうことはできない。そこを支えている存在に、1年間、住み込みでボランティアをしているフォルケスコーレを卒業したばかりの10人ほどの若者(17歳程度)がいる。彼らは、高校に進学する前のギャップイヤーとして、下の世代の生徒会メンバーを支援する役割を担っているのである。あぁ、なんとも日本社会とは違う様相である。同じことを目指すべきだと言いたいわけではない。しかし、こういう国もあるのだ、と知ることが、想像力を広げる一歩になるだろう。


