【連載】ユース・ポリティクス(第5回)未来の首相が育つ場所――北欧社会からのアイデア①

能條桃子(一般社団法人NewScene代表理事)
2026/08/05
Cartoon of a pink-haired person with pink sunglasses on the right; bold magenta Japanese text ポリティクス on the left.

 2023年秋、ノルウェーのオスロで「最近、地方議員を引退した」と語るペトラ・ブリンクさんに出会った。彼女は当時26歳。ほとんど自分と年齢が変わらない人が、「18歳の時から2期8年地方議員を務めたが、若者世代の代表としての役割は終えたと思う。だから次の人にバトンタッチして、今回の選挙には立候補しなかった」と語る様子に衝撃を受けた。ペトラは、16歳の時に労働党の青年部に参加。18歳で立候補し、青年部のボードメンバーとなった。労働党国会議員グループのコミュニケーション・アドバイザーを務めた後、現在は労働党の大臣任用で、農業・食料省の政治アドバイザー(日本の大臣秘書官に近い)を務めている。

未来の首相を育てる組織

 北欧諸国には20代で「政治家を引退して次にバトンタッチした」と語る若者たちがいる。このような状況が実現している背景に、「政党青年部」(英語では「ユース・パーティー」)と呼ばれる組織がある。スウェーデン・ノルウェー・フィンランド・デンマークといった北欧の政党には、ほぼ例外なく、おおむね30歳未満が所属する青年部があり、北欧諸国の政治文化の重要な要素となっている。下限年齢は設けられていないことが多く、12〜13歳の子どもが活動に参加しているケースもめずらしくはない。

 北欧の首相の経歴を遡ると、多くが青年部を経験している。たとえばフィンランドのサンナ・マリン元首相は、大学在学中に社会民主党青年部に入党し、気候変動対策・育児休業改革・教育政策に情熱を注いだ。その後、市議会議員となり、首相就任以前からその実力が注目されていた。北欧諸国のテレビや新聞でも、青年部の代表者が討論に呼ばれ、コメントをしている様子がよく目に映る。メディア等が、青年部の動向を常に注視し、その発言などを重要視しているのは、そこに「未来の首相候補」が確実にいることを社会全体が知っているからでもある。

北欧社会における政党青年部の役割

 私が政党青年部の存在を知ったのは、21歳の時にデンマークに留学していた学校生活においてだった。「政治に興味がある」と友人に話すと、政党青年部に所属している同級生の名前を何人か挙げ、「私はそこまで詳しくないから、彼女たちに聞いたほうがいい」と教えてくれた。自分自身は政治に強い関心がなくても、クラスメートや友人がどこかの青年部に所属しているという環境が当たり前のように存在する。

 青年部は「親政党」と呼ばれる政党と密接な関係を持ちながら、別組織として活動を展開する。親政党は活動資金の提供や選挙の立候補者名簿に青年部の枠を設けるなどの支援を行ない、青年部は親政党への政治家の供給源となりつつ、独自の政策提案や批判的な意見表明を行なう役割を担っている。青年部の代表者や意思決定機関などは、内部の選挙で選ばれるなどし、そこに30代以上の人たちの意見は反映されない。

 国政でも市政でも比例制を採用している北欧諸国では、選挙の際には政党が候補者名簿を出し、その名簿順位が「誰が議員になるか」に大きな影響を与える。どの政党も、政党青年部に一つ以上は当選が確実な枠を提供することが多く、北欧諸国の地方議会を見ると、各政党から青年部の議員が送られた結果、5〜6人の10代・20代の議員がいることもある。

 背景として、若者の代表性が重要視されていることもあるが、それ以上に、政党青年部の力が欠かせないということがある。政党青年部は、若い世代への投票を呼びかけるキャンペーンを展開したり、働き者の若いボランティアを組織したりする。若い世代に自身の政党の選挙キャンペーンに熱心になってもらうためにも、青年部をきちんと扱う政党が多いのである。

子どもたちの模擬投票――「学校選挙」

 多くの北欧諸国で、子どもたちが政党青年部を知り、加入しはじめるタイミングとして、「学校選挙」という取り組みがある。これは(国により若干異なるが)中学校段階での全国的な取り組みであり、大人と同じように実際の国政政党を題材に行なわれる3週間程度の選挙期間が設けられた模擬投票のイベントである。

 学校では、この模擬選挙にあわせて、生徒たちの自主的な投票の参考になるような授業も行なわれるのだが、多くの学校で目玉となる取り組みが各政党青年部の代表が出席する「討論会」である。学校は、その地域にある全ての政党青年部に声をかけ、全政党の代表が一堂に会して体育館で討論を行なう。党派に関係なく、各政党青年部の選挙担当チーム同士で連携し、日程が決まれば全員が同じタイミングで学校に来て討論をし、生徒たちに投票先を決める機会を提供する。日本では政党の代表者というと政治家が来ることが多いが、この討論会には、10代後半から20代の政党青年部のメンバーが討論者として登壇する。生徒たちにとっては自分と年齢が近い人たちが話す政治の議論だからこそ、身近に感じることができるものとなる。

 討論が終わると、討論の間に各政党のメンバーが設営した「選挙小屋」と呼ばれるスタンドが並ぶ校庭に生徒たちは移動する。各政党の10代・20代の党員にその場でカジュアルに質問ができる場となっている。ここで、関心の強い生徒は、「自分も青年部に入りたい」と身近なロールモデルを見つけるのである。

 授業では各政党のウェブサイトを調べ、政策の違いを自分の言葉でまとめる作業や、政党別のチームに分かれて親政党の話を聞きに行き、その後クラスで発表する授業なども行なっている。こうした積み重ねを経て、「自分ならどこに投票するか」を見つけていく。最終的に、校内で模擬投票が行なわれ、その集計結果が全国規模で取りまとめられ、一斉に発表される。公共放送が生中継でトップニュースとして報じ、各政党の青年部はウォッチング・パーティーを開いて首相や党首とともに結果を見守る。テレビの生放送の中継が入り、首相が自身の政党の結果についてコメントする様子も放映される。未来の有権者たちに魅力的に映っている政党はどこなのか? 注目を集めるタイミングともなっている。学校選挙というこの取り組み自体が投票率向上や若者の政治文化を深める機能を果たせている理由に、政党青年部の存在があるのである。

コミュニティとしての政党青年部

 ここまで、北欧の政治文化にとっての政党青年部の重要性を説明してきたが、同時に、政党青年部が政治に関心のある若い世代にとっての居場所・コミュニティになっているという面も紹介したい。青年部に所属する人たちは、月に数百円から千円ほどの会費を払うのだが、ほとんどの人は政治家になることを目指していない。どちらかというと「政治に関心があり、同じ関心がある人と出会いたい」「楽しいことがしたい」「社会問題に取り組みたい」というモチベーションで参加している人がほとんどである。

 多くの政党青年部では、地域支部ごとの活動が軸となっており、私が留学中に訪れた青年部は、地域ごとに週に一度会議を行ない、事務所にあるキッチンで夕飯を作って食事をともにしながら人間関係を構築していた。そして年に一度、サマーキャンプと呼ばれる数日間の合宿を行ない、全国にいる同じ組織の仲間と出会う機会が用意されていた。そのサマーキャンプには、大臣や首相クラスの政治家もゲストとして招かれ、そのような人たちに「チャレンジする(意見をぶつけ、討論する)」機会ともなっている。それは親政党や政治家自身が、今の若者の意見を聞いたり、自身の姿を見直したりする場ともなっているようである。

 日本では、政治に関心がある10代から「SNSしか政治について知ったり話したりする場がない」という声が多く聞かれる。北欧諸国の政党青年部は、若い世代の生活を向上するための政策を考え、社会を変えるための実践をする場であると同時に、リーダーシップを育み、政治を学び、学校選挙での討論のために議論の練習なども行なうことで、未来の政治家が育つ場所となっている。未成年の選挙運動すら禁止されている日本の状況とは違いが大きいが、未来を担う政治家を育てるための一つのヒントになるだろう。

能條桃子

「N O YOUTH N O JAPAN」代表理事。「FIFTYS PROJECT」代表。1998年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。慶應義塾大学院経済学研究科修士。20代の投票率が80%を超えるデンマークに2019年に留学したことをきっかけに、日本のU30世代の政治参加を促進する「N O YOUTH N O JAPAN」を設立し、代表理事を務める。20年に一般社団法人化。Instagramなどを利用したSNSメディアの運営や選挙の投票率向上に取り組む。

2026年8月号(最新号)

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