【連載】日本の公安警察2026(第13回)熊本日日スクープと公安の伝統的手法

青木 理(フリージャーナリスト)
2026/10/08
連載: 日本の公安警察 2026 — 作者は青木 理。

地方紙が暴いた自衛隊の思想調査

 私も他の雑誌連載などで紹介したし、SNS等でもかなり拡散しているようだから、すでにご存じの方は多いだろう。現在は震災の被害に喘ぐ九州・熊本の地元紙・熊本日日新聞=熊日が刮目すべきスクープを放ったのは、震災発生の少し前となる7月23日のことであった。

〈陸自 民間人の思想調査か
 中央情報隊 対外部門
 「愛国心」など数千人分
 文民統制逸脱の恐れ〉

 そんな見出しを掲げ、紙面では同日の1面トップに掲載された、まずはそのスクープ記事のリード部分をあらためて引用しておきたい。

 〈陸上自衛隊中央情報隊(東京・埼玉、朝霞駐屯地)の対外情報部門「現地情報隊」が、日本人の大学教授やNPO法人代表ら市民を対象に、「愛国心」や「対自衛隊感情」といった思想信条の情報を組織的に調査・収集しているとみられることが22日、元隊員らへの取材や関係資料で分かった。本来は海外でのインテリジェンス(情報活動)を任務とする部隊が、明確な法的根拠なく国内での人的情報収集活動(ヒューミント)を担い、集められた情報は数千人分に上る可能性がある。活動内容は、防衛相をはじめとする政治家や官僚らにも知らされていないとされ、シビリアンコントロール(文民統制)を逸脱している恐れがある〉

 続く翌7月24日にも熊日は続報を放っている。こちらも一部を抜粋する形で引用しておこう。

 〈陸上自衛隊中央情報隊の対外情報部門「現地情報隊」が、日本人の大学教授ら市民を対象に「愛国心」など思想信条の情報を組織的に調査・収集しているとみられる問題で、調査項目に性的嗜好や異性関係、身体的特徴といった極めて私的な情報が含まれていたことが23日、元隊員らへの取材で分かった。これらの情報は本人の同意なく集められ、報告書は公文書として扱われていないという〉

 〈この報告書には、対象者の顔写真や学歴、職歴、家庭環境といった基本情報のほか、異性との交際関係、資産や負債などの金銭状況、日頃の金銭感覚、賞罰、犯罪歴を記載する項目があった〉

 もとより防衛省・自衛隊による言語道断かつ論外というしかない逸脱活動であり、憲法が保障する思想・信条の自由等を真っ向から侵すのは記すまでもない。当該の「現地情報隊」なる陸上自衛隊の部隊はいったい何を目的にしてこうした所業に手を染めてきたのか。

 熊日記事などによれば、2007年に新設された「現地情報隊」には50~60人ほどの隊員が所属し、その組織名が示唆するように、主には自衛隊の派遣が想定される国・地域の政情や治安状況といった情報収集が任務だという。

 だが、現地で直接行なう情報収集などには限界があり、そもそもそのような活動を許す法的根拠もない。だから同隊の隊員は、それぞれの国・地域情勢に精通した研究者や専門家らのほか、現地での駐在、活動経験を持つNPO関係者、あるいはマスメディア関係者に接触をはかってきた。その際、接触する対象者がどのような人物なのか――すなわち「愛国心」があって「対自衛隊感情」が“良好〟であれば、情報収集活動への“協力〟が期待できるし、「性的嗜好」や「異性関係」「家庭環境」、あるいは「金銭状況」などを調べあげておけば、それをネタに脅し、すかして“協力〟を求め、場合によっては報酬などを対価にちらつかせて“協力〟を強いることもできる――当初はそんな目的のための活動だったようである。

 実際、熊日の取材に応じた「元隊員」はこう赤裸々に明かしたと記事は書いている。

 〈元隊員は「性的嗜好に限らず酒やたばこ、女好きなどを利用して接触する機会をつくることができる。女性隊員もいるため、それを利用して接触することもある。情報を得る手段の線引きはない。実際にお金に困っている人には交通費などの名目でお金を渡すこともある。予算は情報活動費として公にはされていない」と証言した〉

 強大な国家機関であり事実上は世界有数の軍事組織でもある自衛隊による、まさに法的根拠もなく憲法等にも違背する唾棄すべき逸脱活動であり、と同時にその内実を明るみに出した熊日取材陣のスクープは、メディアやジャーナリズムの活動としては見事というべき調査報道であろう。機密のヴェールの向こう側で隠微に繰り広げられていた活動は、たとえその端緒を掴んでも裏取り取材が困難を極めたことは容易に想像できる。

 しかも取材陣は内部奥深くに隠されていた当該の「報告書」――すなわち「個人BSD=ベーシックソースデータ」なる文書そのものを入手し、元隊員らにも直接取材してその証言までをも記事化することに成功している。こうした報道こそ真の「特ダネ」と呼ぶに相応しく、健全で真っ当なジャーナリズムが地方紙に息づいていることに、青息吐息のメディア界もまだ捨てたものではないと感じさせる仕事に、あらためて心からの敬意を表したい。

公安警察も同じことをしてきた

青木 理

(あおき・おさむ)フリージャーナリスト。1966年長野県生まれ。1990年共同通信社に入社。公安担当記者としてオウム真理教事件などを取材。著書に『日本の公安警察』(講談社現代新書)、『時代の反逆者たち』(河出書房新社)など。

2026年11月号(最新号)

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