〈本の概要〉民主社会主義者として絶大な支持を集め、反トランプ運動を率いるバーニー・サンダース。大金持ちの支配をくつがえし、もっと良い世界をつくるために。全米の人々の心を震わす連帯の呼びかけ。
※この記事は、2026年9月8日発売『寡頭制と闘え!』(地平社)の「解説」の一部に加筆したものです。
サンダースの後継者たちがつくる新しいアメリカ
トランプ政治へのアメリカ市民の不満は確実に高まっているが、民主党はなかなか2024年大統領選での敗北のイメージを払拭できていない。ウォール・ストリート・ジャーナル紙が2025年7月におこなった世論調査によれば、有権者の6割超が民主党に対して否定的な印象をもっており、同紙の1990年以降の調査で最も高い割合となった(*1)。
(*1) “Democrats Get Lowest Rating From Voters in 35 Years, WSJ Poll Finds,” Wall StreetJournal (July 25, 2025),
支持者が民主党に求める変化の方向性は明らかだ。彼らは、金権政治と決別し、大企業や億万長者の利益ではなく、労働者の側に明確に立つ民主党を求めている。昨今の民主党支持者を対象にした調査では、サンダースやオカシオ=コルテスに近い左派的な政治家を支持する人が5割超に及び、民主党の上院院内総務のチャック・シューマーや下院院内総務のハキーム・ジェフリーズらに近い政治家を支持する人は3割程度にとどまる(*2)。
(2)“Poll: Capitalism is out … and socialism is in,” Politico (September 15, 2025),
こうした傾向にさらに拍車をかけたのが、2025年11月におこなわれたニューヨーク市長選でのゾーラン・マムダニの勝利だった。地盤も知名度もない、34歳という若さの元州議会議員マムダニが、元州知事としての抜群の知名度と潤沢な政治資金を誇ったアンドリュー・クオモ相手に驚きの勝利を収めた。「民主社会主義者」を自認するマムダニは、「このような不平等な時代にあって、億万長者は存在すべきではない」と公然と富裕層を批判し、最も尊敬している政治家としてサンダースを挙げる。インド系の両親のもとウガンダで生まれ、アメリカに移住したマムダニは、イスラム教徒でもあり、まさに多様性の象徴のような存在だが、選挙戦でマムダニは多様性を強調するよりも、「民主社会主義者」として、物価や住宅価格の高騰による生活問題に焦点を当て、家賃の固定や市営バスの無料化、公営スーパーマーケットの設立などの具体的な政策を重視してきた。物価高の問題は、少数の億万長者以外、みんなが共通して苦しんでいる問題だからだ。企業や富裕層への課税強化を打ち出すマムダニの台頭に危機感を募らせた富裕層や有力デベロッパーたちは、マムダニを「過激派」「共産主義」と攻撃するネガティブ・キャンペーンに巨額を投じたが(*3)、これらすべてをはねのけてマムダニはみごと勝利した。マムダニは民主党の未来への期待をこう語っている。「最終的に私たちがめざしているのは、労働者を第一に考えること、民主党の原点に立ち返ることです。これこそが、ワシントンの権威主義に対抗する道なのです(*4)」
(*3) “‘Anybody But Mamdani’: 5 Groups Emerge To Raise Millions in Attack Funds,” NewYork Times (July 30, 2025)(*4) “Zohran Mamdani Says ‘I Don’t Think We Should Have Billionaires’,” NBC News (June30, 2025),
マムダニと同世代の民主党の新星として注目されているジェームズ・タラリコもまた、サンダースの継承者と言えるかもしれない。30年超にわたって連邦議会議員や知事職を共和党が独占してきたテキサス州で上院議員をめざしている。移民やLGBTQの権利に揺るぎない信念を抱きつつも、他者への寛容を、キリスト教信仰、とりわけ隣人愛に基づいて説得するそのスタイルゆえに、穏健保守層にもアピールできる候補と見なされ、「第二のバラク・オバマ」と、早くも将来の大統領候補としての期待の声も上がる。タラリコの核心的な主張は、「アメリカを破壊している唯一のマイノリティは億万長者だ」というものだ。その主張はこう続く。「トランスジェンダーの人々は私たちの医療を奪っていない。ムスリムは学校予算の負担になっていない。移民の存在は私たちの税負担を増してはいない。私たちは間違った1%に目を向けている」――こうした訴えが、いっこうに政治や社会、生活が良くならないと感じている多くの人々の心を捉えている。

イスラエル・ロビーから外交政策を取り戻す
億万長者たちは、アメリカの選挙や国内政治を歪めているだけではない。本書でサンダースは、お金の力が「私たちが直面する最も重大な倫理的問題や外交政策の問題に関する意思決定にも影響を及ぼしている」と指摘する。その最たる例が、イスラエルへの巨額の軍事支援だ。ガザやヨルダン川でどれほどの暴力や破壊が跋扈していても、パレスチナ人がどれだけ殺されても、アメリカのイスラエルへの軍事支援は続けられてきた。本書でサンダースは、イスラエルがパレスチナ人に対しておこなってきたことは「自衛」とはほど遠い「パレスチナ人民に対する全面戦争」であるが、アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)などイスラエル・ロビー団体と巨額の資金援助を通じて結びついたアメリカの政治家たちは、この虐殺を支えつづけてきたと痛烈に批判している。
実際、ミズーリ州のコリ・ブッシュやニューヨーク州のジャマール・ボウマンなど、民主党左派の議員たちがイスラエルによる虐殺やアメリカによる軍事支援を批判すると、AIPACは巨額を投じて彼らの落選キャンペーンを展開し、みごと落選させた。「アメリカの外交政策の主要部分は、スーパーPACとその資金提供者である億万長者たちが決定している」というサンダースの糾弾は、決して誇張ではない。
イスラエル・ロビー団体の動きは2026年中間選挙が近づく今、よりいっそう強まっている。もはや「トランプ党」だと揶揄される共和党でほぼ唯一、トランプが始めた無謀なイラン戦争に反対し、トランプがもはや捨て去りつつある「アメリカ第一」の看板を掲げ、イスラエルへの軍事支援に反対してきたケンタッキー州現職下院議員のトーマス・マッシーが共和党の予備選で、無名候補に敗北したのだ。マッシーがイスラエルの軍事行動を公然と批判し、アメリカ市民の税金をイスラエルに送るべきではないと主張したことが、イスラエル・ロビーの逆鱗に触れ、壮大なマッシーの落選キャンペーンが展開されたためだ。この予備選には、3300万ドル(約52億円)という、近年の下院の予備選では最高額となる、天文学的な広告費用が投じられ、少なくともその半分が、マッシーを敗北させるために無名の対立候補を支援した、AIPACなどイスラエル・ロビー関連の資金だと見られている。アメリカの選挙結果は、民意が決めているのか、お金が決めているのか。いよいよアメリカの市民の間に、根本的な疑問が生まれている。
しかし、サンダースによる厳しいイスラエル批判とイスラエルへの軍事支援停止の主張は、今日のアメリカで決して孤立した主張ではない。親イスラエルが当たり前だったアメリカの政治社会に巨大な変化が起きているのだ。2023年10月以降、ガザで続けられてきた凄惨な虐殺を目撃し、若者や民主党支持者の間ではパレスチナ支持がイスラエル支持を完全に凌駕するようになっている。さらに2026年2月末、米・イスラエルによる先制攻撃で開始されたイラン戦争は、アメリカ市民のイスラエル観の決定的な転換点になるかもしれない。2026年2月中旬発表のギャラップ世論調査で、すなわちすでにイラン戦争が始まる前に、アメリカの有権者全体でパレスチナ支持がイスラエル支持を上回るという歴史的な転換が起こった(*5)。こうした世論がすでに存在していたところに、イラン戦争は決定打を与えた。開戦に至る過程で、トランプの意思決定に、他の閣僚の誰よりも影響を与えたのは、宿敵イランとの戦いにアメリカを巻き込む機会をねらいつづけてきたイスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフだった。戦争という、国家の最高度の意思決定にイスラエルが介入したことに対し、アメリカ市民のイスラエルへの怒りは高まっている。
(*5) “Israelis No Longer Ahead in Americans’ Middle East Sympathies,” Gallup (February 27, 2026),
ロビー団体の政治への影響力を断ち、富裕層から外交の自己決定権を取り戻そうとするサンダースの試みは、決して夢物語ではない。2026年中間選挙に向け、サンダースに私淑する「民主社会主義者」たちが続々と、イスラエル・ロビーからの資金援助を拒否し、むしろそうした潔白さを強みとして打ち出し、イスラエルによるパレスチナ人虐殺やイラン、レバノンへの軍事行動を強く批判し、イスラエルへの軍事支援の停止を主張して、台頭している。
メイン州上院議員の民主党予備選では、サンダースの支援を受けた左派のグラハム・プラトナーが、上院院内総務チャック・シューマーの支持を受けた現知事ジャネット・ミルズを世論調査でも資金調達でもリードし、早々に撤退に追い込んだ。プラトナーは、イスラエルによるガザでの軍事行動を「ジェノサイド」と呼び、イスラエルへの軍事支援の停止を訴えている。激戦州のミシガン州でも、サンダースの支援を受けたアブドゥル・エルサイードが、党主流派が支持するヘイリー・スティーブンス下院議員と予備選で争い、勝利した。彼もまた、イスラエルの「ジェノサイド」を公然と批判してきた。「民主社会主義者」の善戦やアメリカ市民社会で強まるパレスチナ支持に鑑みて、今後、イスラエルの軍事行動批判や軍事支援の停止は、民主党の新たなスタンダードになっていく可能性も十分ある。

もくじ
1 寡頭制とは何か?
2 トランプ、寡頭制、権威主義
3 グローバルな寡頭制――億万長者が勝利し、世界は苦闘する
4 人々は成し遂げた、私たちもできる――歴史の教訓
5 寡頭制と闘う
6 ここからどこへ向かうのか?
【著者・訳者略歴】
バーニー・サンダース (著)
Bernie Sanders アメリカ合衆国連邦議会史上で最長の任期を務める無所属議員。2016年と2020年、大統領選挙の民主党候補の指名獲得をめざして闘った。バーモント州バーリントン市長を8年、連邦下院議員を16年務め、現在は上院議員の4期目を務めている。妻のジェーンとバーリントンで暮らし、4人の子ども、7人の孫がいる。
中村 みずき (訳)
(なかむら・みずき)脱軍事化、脱植民地化を主なテーマに、翻訳・通訳、執筆、ツアー企画などをおこなう。訳書にデニ・ムクウェゲ著『勇気ある女性たち――性暴力サバイバーの回復する力』(大月書店)、共著に Peace Action: Struggles for a Decolonised and Demilitarised Oceania and East Asia (Left of the Equator Press) 。
三牧 聖子(解説)
(みまき・せいこ)1981年生まれ。同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授。専門はアメリカ政治外交。著書に『戦争違法化運動の時代』(名古屋大学出版会)、『Z世代のアメリカ』(NHK出版新書)ほか。近刊『「アメリカの戦争」と世界危機』(岩波書店、共編著)。
『寡頭制と闘え!』
2026年9月8日発売
四六判並製、168ページ、1980円(税込)
書籍 978-4-86863-000-5






