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連載1回から3回は、電力を作る現場からレポートしてきた。今回は、再生可能エネルギーを作る側と使う側を結ぶ「PPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)」と「非化石証書」の仕組みとともにレポートする。
「自然エネルギー100パーセント大学で日本を変える、商学の力で日本の未来を変える。学生1300人の大学ですが、我々の使命は、ビジネスでお金を儲け、お金を儲けることによってみんなが豊かになること。みんなが豊かになれば、戦争をするような世の中もなくなる。商学とは、自分が儲かるためにやるんじゃないってことです」
横浜商科大学の吉原毅理事長は、力強く開会挨拶した。6月6日午後、同大学創立60周年記念として開催した講演会「自然エネルギー100%大学への挑戦」でのことだ。

そこに登場したのが、午前に田植えを終えたばかりの格好で駆けつけた、合同会社小田原かなごてファーム(以後、かなごて)の小山田大和代表だ。営農型発電所を営む小山田氏は、その思いをこう語った。
「小田原は、森、里、川、海、すべての自然資本といわれるものがコンパクトにまとまっている地域です。そこで育まれた農地から、一大消費地である横浜に電気を届けていけることは、感慨無量です。願わくば、小田原だけではなく、営農型発電がいろいろな地域を活性化していけると知っていただきたい」
横浜商大は、かなごて、株式会社UPDATER(代表取締役:大石英司)、グリーンピープルズパワー株式会社(代表取締役:竹村英明)の三者と連携し、大学で使う年間電力消費量の全量約60万kWh(2025年度実績)を、再エネルギー由来の電力100%に切り替えるという。
吉原氏は、東日本大震災後わずか1カ月の2011年4月、城南信用金庫の理事長として「原発に頼らない安心できる社会へ」と経営方針を掲げて喝采を浴びた人物だ。2013年に脱原発を言い始めた小泉純一郎元首相らとともに、脱原発を世に強く訴えた。
この日は、NPO法人環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長が講演した他、学生たちが、かなごてを訪れて受け止めたことも発表した。再エネを通して学生を導く意志が感じられた。
郵便局員から営農型発電の担い手へ
筆者もかなごてに向かい、小山田氏の人生劇場を伺って驚いた。
小山田氏は最初から農家だったわけではなかった。郵便局員だった。福島第一原発事故を機に、大学卒業後に3年働いた「鈴廣かまぼこ」(創業1865年)の鈴木悌介代表取締役副社長に手伝いを請われ、郵便局員の仕事をつづけながら「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議」(以後、エネ経会議)の設立に携わった。
エネ経会議は、小田原を拠点に「持続可能なエネルギーに裏打ちされた事業経営と経済社会実現」を目的とした中小企業経営者の集まりだ。
小山田氏は2014年に郵便局を辞し、フルタイムでエネ経会議の事務局長となった。
「僕はそれまで別に原発のことも何とも思ってませんでした」という小山田氏だが、エネ経会議の事務局長として、吉原氏や小泉氏らとともに全国を講演会や勉強会で飛び回った。
一方で、エネ経会議の外では、地元でまちづくり活動も進めた。
「2013年、ひょんなことで耕作放棄地を預かることになって、日本の農業が持続不可能な状況になっていることに気づいた。耕作放棄地って『昼寝していた畑』じゃないですか。『おひるねみかん』というブランドを商標登録して、預かったみかん畑からみかんジュースを作って販売し始めたんです」
また、エネ経会議で学んだ理念を実践すべく、2016年に「かなごて」を設立。この10年間で営農型発電所を8号機まで増やした。
電気の売り先は1、2、4号機がUPDATER、3、5、6、7号機がGPP、8号機が湘南電力株式会社だ。8号機で発電する電力については、2025年、隣の開成町が湘南電力を通じて町内の住宅や事業所へ安く電力供給するプロジェクトに協力するため、全量を供給することになった。当初、湘南電力に提示された買取価格は低かった。
「それでは採算が合わないから供給できない。ウチは農産物と同じようにプライドを持って電気を作っているわけだから、少しでも高い価値を持たせてくれるところに売りたいと思っている、と言ったら、契約しているPPAの中で一番いい価格に上げてくれました」
夢中で営農型発電を増やした背景には、2020年の小田原市長選で主流派が推した候補者の対抗馬を応援したのがきっかけで、エネ経会議の職を辞したことがあった。
この間、「職に困っているなら」と傷心の小山田氏に声をかけた人がいた。2013年から2020年まで耕作放棄地の取り組みを見ていた人物だ。農家の資格が欲しいならと聞かれた。そして、「まちづくり活動を一緒にやってた農家さんが推薦状を書いてくれて、それを持って、農業委員会で手続きをして農家になった」(小山田さん)。

横浜商大につながる
「7号機は、その後に農家に『土地を買ってくれ』と言われて買えたからできた。農家の資格を持ってなかったら土地は買えなかったわけです」と小山田さん。
2号機の下では、神奈川のブランド米「はるみ」を自然栽培し、造り酒屋「井上酒造」(創業1789年)とともに日本酒「推譲」を世に出した。5号機は、小山田氏の活動を朝日新聞で読んだ農家が、それを握りしめて「うちの農地を使ってくれ」とやってきて始まった。耕作放棄地であり、大きな車両が入れる道路に面していなかった。
「耕作放棄地になるには理由があるんですよ。あそこの駐車場に入る許可をもらって、クレーンでソーラーパネルを吊り上げて搬入した」(小山田氏)。大きな道路から一つ奥まっているだけでコストは嵩んだ。
「電線はそこ(数十メートル先)までしか来ていない。ここに電柱を1本建てたんで、接続負担金が70万円ぐらいかかった。なのに、柏崎刈羽原発が再稼働してからは出力抑制される。東電からは事前に何の知らせもない。ある日突然、パワコンから『異常です』って通知が端末に来て気づくんですが、送電が止まるんです」と悔しそうだ。
「勝手に止められる装置をつけろという条件で接続してもらうんですけど、原発再稼働のあとは1割ぐらい送電量が減っています」と嘆く。
国民が再エネ賦課金を負担する固定価格(FIT)制度を利用していない発電所でも出力抑制をするのは、「いかがなものか」と小山田さんは憤慨する。
2024年の小田原市長選では、小山田氏が応援して2020年に落選した候補者が当選。選挙公約に盛り込まれた通り、第7次小田原市総合計画(2025年)には、「農業を重視し、自然環境や生物多様性に配慮した営農型太陽光発電を促進します」という文言が入った。
そして、電気を横浜商大に売る話は、今年1月、吉原氏から来た。
「小山田さんの電気を使えないかと言われ、技術的にはできますけど、新電力を絡めないといけないからとGPPの竹村さんに連絡したんです。ただ、GPPに売っている電力だけでは足りないからUPDATERにも連絡した」
UPDATERとGPPがかなごてから買っている電力にはすでに決まった売り先があり、それだけでは、横浜商大の電力を賄えない。そこで、足りない電力は、UPDA
TERが持つ仕組みで補うことになった。
2種類のPPAと非化石証書
そのUPDATERの果たす役割に立ち入る前に、やや込み入った仕組みを解説しておこう。
再生可能エネルギーのPPA(電力購入契約)には2種類ある。
■オンサイトPPA:電気を消費する者(需要家)が、発電事業者に建物や敷地を貸し、その場で需要家が電気を消費する長期契約
■オフサイトPPA:離れた場所で発電事業者が作る電気を、需要家が消費する長期契約
かなごてが作り、横浜商大が使う電気は、オフサイトPPAによるものだ。
もう一つ、日本卸売取引所(以後、JEPX)の市場で買った由来の分からない電力に「非化石証書」の環境価値を組み合わせて、「実質再エネ100%」と呼ばせる契約もある。
「非化石証書」の仕組みは2018年5月に始まったもので、資源エネルギー庁電力基盤整備課に尋ねると、背景には2009年にできたエネルギー供給構造高度化法がある。これは、電気事業者が調達する電力の一定の割合を「非化石電力」にすることを義務付けたものだ。
「2030年度で44%以上、を目標に定めましたが、2016年の電力自由化で新規参入した新電力会社の電力調達手段は、JEPXの市場しかありませんでした。市場で取引される電力自体は、特定の電源を特定できません」
しかし、需要家の側で「再エネ」を買うニーズが高まり、「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」の中間取りまとめ(2017年2月)をもとに、2018年5月以降に「非化石証書」の制度が始まった。再エネで作るFIT電力から「環境価値」を分離して取引する制度だ。
もう一つの背景を、電力基盤整備課の担当者はこう説明した。
「FIT電力の環境価値は、再エネ賦課金を払う国民のものと捉え、その環境価値を取引して収益にすれば、国民が払う再エネ賦課金を低減できる」。
だが、ここで強調しなければならない問題が二つある。
一つは、電力と環境価値を切り離しているため、「非化石証書」と組み合わさる電力は、石炭火力による電力でも、原発による電力でも「実質再エネ」と表現できること。経産省の「電力の小売営業に関する指針」(2026年4月9日)にそうある。「非化石証書」=「再エネ」ではない。
もう一つは、エネルギー供給構造高度化法が目指すのは「脱炭素」であり、「再エネ」が足りなければ、その分、原発を温存しなければ目標を達成できなくなるという、妙な関係を持っていることだ。
そこで、役割を果たすのがUPDATERだ。
UPDATERの「顔の見える電力」
UPDATERには、直接調達している再エネ発電所が全国に1100カ所ある。これに対して、需要家は約4000事業所(5億kWh)で、1世帯換算すると13万世帯分の再エネを供給している。具体的にどの発電所からの電気が自分のところに来ているのかを知りたい需要家には、ブロックチェーン、すなわちデータを改ざんさせずに情報元までトラッキングできる独自の方法を用いて、「顔の見える電力」を供給できる。
横浜商大にはかなごてとのPPAで賄えない分については、「顔の見える電力」により、「再エネ100%を証明した電力を、できるだけ神奈川県内のものを集めてお送りする契約をしました」と、UPDATER戦略広報部の豊島翔部長は説明してくれた。
GPP「実験場」としての挑戦
一方、GPPは、「再エネ100%を実現するための実験場」と竹村氏が会社の特徴を言い表す。かなごてのような再エネ発電所から電力を買って売る小売電気事業と並行し、2025年には農家が自ら農地転用して使わなくなった土地を譲り受け、自社でも営農型発電所を始めた。千葉県市原市の「高滝湖第一発電所」がそれで、地植えのブルーベリー畑の上にパネルを設置した。
オンサイトPPAもオフサイトPPAもすべて「実験済み」で、目下の推しはオフサイトPPAだ。
「PPAのメリットは、再エネ産直で蓄電池と組み合わせれば、地域での地産地消が可能になること。それを広げていけば、大きな地域での地産地消が可能になります。GPPが目指す再エネ100%の電力供給は、まさにそれです」と竹村さん。
「ただし、オンサイトのデメリットは送電線を使うので、送電会社に託送料金を払わなきゃいけないこと。託送料金には福島第一原発の廃炉費用まで含まれています。それだけじゃなく、再エネ賦課金、容量拠出金も払わなければならないから高くなる」
一方で、オンサイトPPAは怖いという。
「オンサイトPPAは、それら全部が要らないし、屋根の上から直接下に送るだけだから楽チンですが、例えば屋根を持っていた会社が倒産すれば、その発電設備は撤去することになる。仮に1000万円かけて作って5年で潰れた場合、撤去コストがかかる。最近、痛い目に遭いました。FIT期間が残っていて他の施設に移す場合は、撤去費用と移転費用が追加になる。なおかつ、パワコンや蓄電池には、電気システムなどの安全性や品質を確保するための第三者認証『JET認証』があって、認証期限は5年。6年目だったので、もう1回、買い直さなければならなくなりました」
「実験」で失敗やリスクから学びながら前進するのがGPPなのだ。
先述した「高滝湖第一発電所」では、地域住民との約束で、「お助け高滝」と呼ぶ「草刈り隊」ができたという。見に行くというので同行させてもらったが、周辺の草刈りはしてあっても、ブルーベリーとそこに絡まる蔓は伸び放題だった。手伝いがてら炎天下で30分ほど蔓切りをしただけで、とめどなく汗が噴き出した。千葉の営農型発電所を東京から営むのは楽ではない――そんな実験結果を体感した。

2校目の「再エネ100%大学」
さて、UPDATERからかなごての電気と、トラッキングできる再エネを受け取る横浜商大を訪れた。丘の上に連なる閑静な住宅街の中にあった。
校長室で取材を受けてくれた原科幸彦学長にとっては、大学を再エネ100%にするのは2校目だ。
原科氏は、東日本大震災当時、東京工業大学教授として、大学が受電する電力を再エネにできないかと調べた。すると可能なのは3%程度にとどまることがわかり断念した。
退職後に着任した千葉商科大学では、前学長が大学キャンパスから1時間ほど離れた場所にあった旧グラウンドを活用したメガソーラー野田発電所の整備を決定していた。2014年に稼働を始めると、発電実績は学内消費量の77%になった。残り23%。省エネと創エネで、発電と消費を同量にするプロジェクトを立ち上げた。2017年に学長に就任すると「自然エネルギー100%大学」にすることを宣言。野田発電所のパネル増設、校舎屋根へのパネル設置、キャンパス内照明のLED化を完了させ、2019年1月には発電と消費電力を同量にする目標を達成した。
「中にはメガソーラーは売電しているだけで100%はインチキじゃないかという声もあったが、社会に流通する電力を大学が作って提供することには意味があると説明した」(原科氏)。
同年8月には、みんな電力(現、UPDATER)のブロックチェーンを活用して、自校の再エネを買い戻す方法で、売る方も買う方も再エネ100%にした。「メガソーラーを持った千葉商大のモデルでは、汎用性は低いが、いろいろな組み合わせで100%を実現できることを示した」(原科氏)。
2021年には、「自然エネルギー大学リーグ」を作った。千葉商大が先鞭をつけ、足利大学、東京外国語大学、上智大学、千葉大学、慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス、長野県立大学、名古屋大学、広島大学、立命館大学がリーグに加盟した。
2025年3月に千葉商大を辞すると、同年11月末、吉原理事長から横浜商大の学長就任を頼まれた。「ワイフが反対して」一度は断ったが、クリスマスの日に理事長本人が訪ねてきて、いつの間にか口説かれてしまった。
自然エネルギー大学リーグに新たに加わった横浜商大が、リーグの事務局を務めることになった。「リーグを作ったのは、再エネ100%を大学にも広めたかったからだ。横浜商大が実践する営農型発電とオフサイトPPAの組み合わせなら汎用性がある」と力説する。
吉原理事長に最初に口説かれた小山田氏は「技術はあっても、人と人とのネットワークがなければできなかっただろう」と述べていたが、その通りだろう。
オフサイトPPAや証書という無機質な言葉とは裏腹に、作り手の思いと価値観が合わさったところに、新たな再エネ100%大学が誕生したのだ。(つづく)




