選択的夫婦別姓や同性婚、女性・女系天皇への反対をはじめ、ジェンダー平等を否定してきたことで知られる高市早苗首相。そうして、女性を抑圧する保守的な政策を推進しつづけてきた政治家であるにもかかわらず、女性の有権者からも比較的高い支持が続くのはなぜか。市民への取材から見えたのは、高市氏の政治思想とは無関係な〝ふわっとした〟支持と、その背景にある根強い女性差別、それに対抗するカウンター的な選択肢が弱い現状だった。
高市首相に対するぼんやりとした期待
「高市さんは男性社会で本当に頑張っている。応援しています」
リベラル系vs自民系の自治体選挙として注目を集めた、6月下旬の杉並区長選。「高市人気」の現状を探ろうと、街頭で市民たちの反応をうかがってみると、抽象的だが力強い高市支持の声が、次々と聞こえてきた。
「目の前のことだけじゃなくて未来のことを考えてくれてる。言葉は噓じゃないとわかる」(60代会社員)
「物価高対策も頑張ってくれている印象」(50代会社員)
「石破さんは中国の言いなりだったが、高市さんははっきり話して判断力も強い。日本のモチベーションを上げてくれる感じがする」(50代)
なかには、「高市さんも岸本(聡子)さんも女性として応援している」と話す50代女性もいた。保育士という女性の多い職場で働いていても、意思決定権を持つのは男性で、現場の意見が男性リーダーによってねじ曲げられる状況に、不満があるという。「高市さんは、男社会を反発心で勝ち上がってきたせいか、少し強引な感じがする」と違和感も口にしながら、「高市さんも岸本さんも、女性の繊細さで男性の縦社会を変えてくれるはず」と期待を語っていた。
選挙戦中の6月26日、山梨県で震度6弱の地震が起き、高市氏は夜11時過ぎに官邸で、1分半のぶら下がり会見を行なった。 クリーニング店を経営してきたという70代女性は、「高市さんは休む暇もなく頑張ってる。昨日も夜遅くに記者会見をして本当に偉い」と感激した様子だった。
のちに確認したX上では、会見動画とともに、「総理、お風呂入ってたよね? 髪濡れてるしノーメイク……ほんと大変な仕事だと思う」との投稿が、11万超の「いいね」を集めていた。「お風呂上がりにすぐ飛び出し迅速対応『国民の命が第一』も本気で思ってくださってるこんな総理、初めて見て胸熱」などの投稿にも、2万以上の「いいね」。街頭の女性の反応は、けっして例外ではなかったようだ。
6月下旬は、高市氏の秘書らの関与が疑われた中傷動画の問題が、国会で取り沙汰されていた時期でもあった。疑惑に答えない姿勢は批判を浴びたが、高市支持者は異なった受け止め方をしていた。
「高市さんが首相になって『日本が好き』というムードが盛り上がってきた。排外主義やヘイトはダメだけど、自分の国が好きっていう気持ちは大事」と話すのは、60代の無職女性だ。動画問題については、「どうでもいい問題なのに野党が揚げ足をとっている」と話し、「それでも、高市さんは秘書のせいにしないところが偉い。実力だけでのし上がってきた人だから、愚痴っぽいことを言わない。芯が強いところが、女性から見てもかっこいい」と述べる。
実力、信念、勢いがある女性――そうした支持者の評価は、2月の衆院選時の街頭取材とも似通っていた。
「停滞した日本を変えてくれそう」
「話し方がわかりやすい。今までの首相と全然違う」
「働いて働いてと、睡眠時間も削って頑張っている。ガンガンやってくれそう」
当時も、〝ふわっとした〟期待の一方、具体的な政策や保守的な政治信条などを挙げる人は少数だった。首相になって良くなったと思う点を聞いても、「具体的にはまだわからない」といった返答にとどまる。就任後に円安や物価高が進んだ点について問いかけても、「すぐに解決できる問題ではない」「誰がやっても変わらない」と、擁護する反応が目立った。
政策・政治思想との奇妙なすれ違い
高市氏について、「何かを変えてくれそう」という抽象的な支持ばかりが目立つのはなぜか。「女性」という属性は、その漠然とした期待に、少なからぬ影響を与えているとみられる。
その背景を大まかに分類するなら、3点あるだろう。まずはこれまで挙げたような、「女性なのに頑張っている」という期待感だ。日本社会のリーダー層に、いまだに女性のプレゼンスがあまりに低い現状の裏返しなのか、女性が表舞台で演説をしたり、夜遅くに記者会見をしたりするだけで新鮮に映り、「頑張っている」「何かが変わりそう」という反応が出てくる。
「女性だから男性にバカにされてかわいそう」と、感情移入して語る人もいた。創価学会員で公明党を支持してきたという、派遣システムエンジニアの50代女性は、中傷動画問題にかんして、「女性だから週刊誌ネタで叩かれる。男性議員ならあんな失礼なことはされない」と主張する。過去にも「有力政治家の愛人」などと噂されたことを挙げ、「女性は野蛮な言葉をかけられる。男性なら、浮気しようが少し騒がれて終わりなのに」と、女性差別の現状に憤りながら、高市氏を熱心に擁護していた。
2つ目は、「女性だからわかってくれそう」という見方だ。「女性だから、家計のことも考えてくれるんじゃないか」「女性も働きやすい社会を作ってくれるのでは」といった印象論もあれば、より切実な思いを語る人もいた。
数年前に夫が病気になって歩けなくなったという、50代のアルバイト女性は、「家族が障害者になって、社会がいかに健常者を中心に作られているかわかった」と話す。みずからも、社会保険に入れない「超絶ブラック」な職場で働きつつ、夫の通院に同行するが、手続きの複雑さから、障害年金の申請を諦めたという。「高市さんの夫も介護が必要と聞くから、障害者への支援にも力を入れてくれると思う」と、期待を寄せていた。
実家の家庭環境が複雑で、児童養護施設で育った20代女性は、精神障害者手帳を保有し、現在はグループホームで生活している。フルタイム勤務が難しくアルバイトで働くも、やはり生活は苦しい。自治体に対して、福祉の充実を求める手紙を出したこともある。そんななか、昨年の参院選で政治に興味を持ち、各党の公約を見比べると、「弱い立場の人のために動いてくれそうなのが自民党」と感じたという。外国人の生活保護不正受給対策や憲法9条改正などの主張が、「若い人のことを考えた政治」と映った。高市氏が首相就任後、「103万円の壁」を引き上げたことについても、「30年間変わらなかったものを変えてくれた。生活に困っている若い人のために動いてくれそう」と受け止めたようだ。
外資系製薬会社で働き、「仕事ばかりで政治にまったく興味はなかったが、女性が首相になって、初めて興味を持った」という60代女性は、「女性が働きやすくなるような社会にしてほしい。結婚で女性ばかりが名字を変えないといけないのも不平等」と話した。
障害者・困窮者支援、選択的夫婦別姓への期待。いずれも、残念ながら高市氏が力を入れるとは思えない政策のはずだが、支持者は異なった印象を持っているようだ。
男性中心社会への適応
3つ目は、「『女性のため』と言わないところがいい」との意見だ。男性が多い業界で経営者をしてきた60代女性は、「高市さんは女性として頑張っているのが伝わってくる」と共感を見せ、「高市さんも『女性』とアピールしないが、私も『女を使ってる』と見られないようにすごく気をつけている。飲み会でも、お酌は絶対にしない」と話す。50代のアルバイト女性は、「外国の男性リーダーと渡りあえるのか心配だったが、中国との外交にも強気な姿勢でいい」と称賛する。「『女性のため』などと言わない点もいい。女性に媚びないから、男性にも受け入れられる」と語った。
この点については、男性支持者からの言及も目立った。「男女関係なく実力で首相になった。これこそが真の女性進出」(60代元公務員)、「性別は関係なく実力があるので支持したい」(20代大学生)、「今までの首相と知識が全然違う」(60代男性)。女性初の首相として注目を集めながら、女性の権利向上などを打ち出さない姿勢は、一部の男性からの確かな支持につながっている。
「男性社会で頑張っている」「女性だからわかってくれそう」「『女性』と強調しない姿勢がいい」。支持者たちの声をそうした3つのポイントで整理してみると、そこからは、ジェンダー平等後進国の日本で、女性たちが置かれている複雑な状況が浮き彫りとなる。
男性中心社会での生きづらさや不平等を、多くの人が何となく感じている一方で、差別解消を正面から訴えることは、「男性から嫌われて潰されるだけ」という圧力としても認識している。男性中心社会に適応する以外のリーダー像が日本社会には乏しく、フェミニズムの言説が浸透しきっていないようにみえる現状では、男性権力に嫌われないよう、ジェンダー平等を強く主張しない高市氏の振る舞いはあまり問題視されず、むしろ肯定する人が少なくない。実際には強い国家や経済を重視する姿勢が色濃く出ているのにもかかわらず、支持者の間には「女性だから弱者の気持ちをわかってくれるはず」という、伝統的な「ケアする女性」像に基づいた期待が横たわる。そうした複雑な要素が絡み合い、支持を形成しているのが実態ではないだろうか。
マッチョな構造への抵抗
高市氏への支持が、固い政治思想に基づくものではなく、〝ふわっとした〟期待であることは、参政党支持者の反応との違いから、よりくっきりと浮かび上がる。参政党が大幅に議席を伸ばした昨年7月の参院選で、私は40人ほどの支持者に街頭で話を聞いた。
「氷河期世代として四十数年生きてきて、日本が良くなっていると感じたことが一度もなかった」(40代会社員女性)などと閉塞感を語り、〝新しく見える政治〟に期待していた点は共通している。しかし、「中国人は無料で大学に通える」「中国人は医療費を払っていない」など、「外国人優遇」を第一の支持理由として挙げる人が、かなり多かった。
高市氏の支持者にも「外国人が多すぎる」などと主張する人はいたものの、排外主義的な言説を前面に出す人は少ない印象だ。『東京新聞』と名乗って取材を申し出た際、参政党の街宣現場では、「反日」などとあからさまに敵意を見せる人とよく出会った。自民党の街宣現場でも、そうした反応は皆無ではないが少数で、親切に取材に応じてくれる人が大多数である。高市支持者には、無党派層が比較的多いのは明らかだった。
一方、高市氏に対して批判的な女性たちの見方はどうか。
「国家ばかりを見て国民の生活は見ていない。自分だけで仕事を抱え込み、スタッフとうまく連携できていない姿も、リーダーとしてふさわしいとは思えない」(40代会社員)
「防衛費の増額を十分な議論なく進めていて心配」(30代会社員)
「周りのバリキャリ系の友人は『女性で頑張ってほしい』と言っているが、信じられない。中国との外交も危なっかしいし、高額療養費制度の自己負担引き上げは、病人は死ねと言っているよう」(50代主婦)
軍事強化の流れや弱者を切り捨てる政策のほか、マッチョな価値観への批判もあった。外資系コンサル会社に勤める20代女性は、「働いて働いて」という高市氏の姿勢に言及する。彼女の勤務先でも長時間労働が評価される風潮があり、高市氏が「女性初」として旧来型の価値観を押し出すことで、「女性の働き方やリーダーのロールモデルがますます固定化されてしまうのではないか」と懸念していた。
ただ、批判する女性の側にも、ミソジニーが垣間見えることはある。
「高市さんは作り笑いをするばかりで、威厳がない。水商売じゃないんだから」(80代自営業)
「年上の男性に媚び売って出世してきたタイプ。中国への強硬発言も付け焼き刃な感じ。石原慎太郎元都知事のように、信念を持ってほしい」(40代会社員)
支持・批判双方の声から浮かぶのは、マッチョな社会構造を根本から変える対抗軸の存在感が、あまりに弱い現状ではないだろうか。男性中心の社会や価値観に不満や違和感を抱いている女性は少なくない一方で、フェミニズムやジェンダーの視点から根強い女性蔑視を問い直すほどの動きにはならない。男性に迎合的でない選択肢が見えにくいなかで、〝女性活躍〟の成功例としての高市氏の男性的な振る舞いに、少なくない女性が違和感を覚えることなく、むしろ改革者として期待を寄せてしまうのだろう。
高市氏の支持率は7月ごろから低下傾向が見られるものの、8月の世論調査でも5割程度と比較的高い状況が続く。家父長制的な規範に生きづらさを感じながら高市氏を支持する女性らを、不合理だと切り捨てるのではなく、差別や抑圧に代わるオルタナティブな選択肢、平等や包摂に基づく社会があり得ると訴求していく。それが、矛盾した現状を打開するために必要な、対抗する側の態度ではないだろうか。




