ガザ 爆撃による医療崩壊助かる命が助からない

マフムード・ムシュタハ(ガザ出身ジャーナリスト)
2025/05/09
イスラエルによる空爆で破壊されたガザ地区のアル=アハリ・アラブ・バプテスト病院。なんとか機能していた病院がまた壊された。Photo by Saeed Jaras/Middle East Images/ABACA/共同

医療従事者の意図的な殺害

 ことし3月23日、赤新月社と民間防衛隊のパレスチナ人の医療チームが、午前中に攻撃を受けた同僚を救助するため、南部ラファに向かっていた。しかし途中、彼らとの連絡は途絶えた。状況から、メンバーはみな死亡したと推定された。

 しかし数日後、遺体を捜索するために現場に向かった国連人道問題調整事務所(OCHA)、赤新月社、民間防衛隊の合同チームが目にしたのは、手足を縛られ、識別不能なまでに損傷し、切り刻まれた仲間の姿だった。遺体には、明らかに至近距離から射殺されたであろう痕跡が残されていた。

 彼らは爆撃で殺されたのではない。明確な意図をもって殺害されたのだ。イスラエル軍は彼らを冷酷に「処刑」し、遺体をブルドーザーで踏みつけ、そのブルドーザーで彼らを埋めた。

 「(殺された仲間は)制服を着て、手袋もしたままだった」と、遺体発見後、OCHAのジョナサン・ウィッタールは述べている。民間防衛隊の報道官、マフムード・バサルは言う。

 「彼らのうちの1人は服を脱がされ、1人は首を切り落とされていた」

 ガザ・メディア事務局によると、イスラエル軍は2023年10月7日以降、少なくともガザで働く1402人の医療従事者を殺害しており、これは、現代史におけるもっとも卑劣で致命的な医療従事者への攻撃のひとつとされる。イスラエルにとっては、医療従事者の殺害もまた、ガザの医療インフラに対する攻撃の一環なのだ。

 34の病院が破壊され、完全な機能停止に追い込まれた。240の医療センターや施設、142台の救急車が攻撃の標的にされた。ガザの医療部門における被害総額は30億ドルを超えると推定され、こうした状況で、包囲と爆撃にさらされる住民らの治療に適切にあたれるはずがない。ガザの医療は、とうに危機的状況を越えている。

 この戦争で、イスラエル軍はガザの医療施設を襲撃しては自分たちの軍事拠点へと転換してきた。これはヒューマン・ライツ・ウォッチの最近の調査で明らかになったことだが、アル=シファー病院やナーセル病院といったガザの主要な病院も占拠され、患者や職員は強制的に退去させられ、人々は時に治療を受けられないまま死亡していった。

 イスラエル軍は、意図的にこうしたことをする。ガザ地区のありとあらゆるところで起きている大規模な封鎖や援助物資の剥奪と同じように、ガザの医療システムを解体することは、彼らの明らかな戦略であり、これは当然、人道に対する罪に相当するはずだ。

 今回の「停戦」前ですら、ガザ地区の医療施設は、15カ月にわたる継続的な攻撃ですでに機能不全の状態だった。それが、いっときの「停戦」が終わり、イスラエルによる軍事作戦の再開とガザ地区の完全封鎖がまた始まった時、ガザ地区にある病院はいよいよ、ガザの医療システムは「臨床的死」の状態にあると宣言した。

 保健省野戦病院局長のモハメド・ザクート医師も、戦争の再開が、すでに耐えがたい人道危機をさらに悪化させていると警告した。イスラエル軍による国境検問所の継続的な閉鎖が、最低限必要な医薬品や医療機器、燃料がガザに入ることを拒みつづけている。

 そうした状況で、ガザ地区の病院内の光景というのは、もはや医療施設とは信じがたいありさまだ。患者たちは血まみれの床に横たわり、傷は治療されず放置される。酸素が尽き、息を切らして苦しんでいる人のそばで、沈黙の中、決して訪れることのない救済を待ちつづける人がいる。

 繰り返すが、ガザの医療システムは、意図的に破壊されている。ザクート医師は言う。「私たちの病院はパンク寸前で、あらゆるものは底を尽きかけている」と。「不足どころではない。完全にないのだ」。

マフムード・ムシュタハ

ジャーナリスト、人権活動家。ガザ出身。現在英国レスター大学でグローバルメディアとコミュニケーションの修士号を取得中。2024年秋、初の著書Sobrevivir al genocidio en Gaza.(ガザでの虐殺を生き延びて)(スペイン語、未邦訳)を出版した。

2025年6月号(最新号)

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