誰のための再審法改正だったのか

笹倉香奈(甲南大学教授。専門は刑事訴訟法、日本の死刑制度、冤罪など)
2026/09/07

 再審制度の見直しを中心とする刑事訴訟法の改正が、2026年7月17日の衆議院本会議で成立した。第二次世界大戦後に現行刑訴法が成立・施行されてから、再審法(再審制度に関連する刑訴法の規定やルール)に関する規定が改正されたのは初めてである。

 この改正は、冤罪被害者の痛みや苦しみに、どこまで真摯に向き合うものだったのだろうか。

 近年、誤判・冤罪事件が次々に明らかになって再審開始決定や再審無罪判決が相次ぎ、これらの事件に共通する再審法の問題点を解消するための改革が急務とされた。

 たとえば、再審請求をするためには、再審請求人が無罪を示す「明白」な新証拠を示すことが必要である(刑訴法435条)。しかし、有罪判決確定後もほぼすべての証拠が捜査・訴追機関の手元にあるため、再審請求段階での検察官からの証拠開示が決定的な意味を持つ。袴田事件では、第2次再審請求一審で数百点の証拠が開示されたことが、福井事件では、第2次再審請求で検察官が287点の捜査報告書などの証拠を開示したことが再審無罪につながった。これまでの刑訴法には再審請求審段階での証拠開示に関する規定がなく、たまたま再審事件に積極的な裁判所に事件が係属すれば検察官に証拠開示を促すなどして手続が進んだが、そうでなければ、捜査機関内に埋もれている無実の証拠に請求人がアクセスできなかった。「再審格差」とも呼ばれるこうした状況を解消するために、証拠開示手続のルールが必要だと主張されてきた。

 さらに、何十年もかかってようやく再審開始決定を得ても、検察官が不服を申し立て、開始決定の確定と再審公判に至るまでにさらに長い時間がかかるという事例が後を絶たなかった。袴田事件では、2014年の静岡地裁の再審開始決定から再審公判が開かれるまで、検察官の不服申立てによって9年が経過した。多くの冤罪事例の共通項を結べば、再審段階における証拠開示制度と検察官の不服申立ての禁止は、特に中心的な2つの改革課題であった。

改正の経緯

笹倉香奈

(ささくら・かな)甲南大学教授。専門は刑事訴訟法、日本の死刑制度、冤罪など。イノセンス・プロジェクト・ジャパン事務局長。著書に『刑事訴訟法[第2版]』(日本評論社)、訳書に『アメリカ人のみた日本の死刑』(岩波新書)など。

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