「有害」ブランド
2026年中間選挙の見通しにおいて民主党が早い時期から優勢となったのは、おさまらない物価高、特にガソリン高の背景にあるイラン攻撃、そしてトランプ政権の大規模な腐敗に対する怒りなど、共和党側の「敵失」によるところが大きい。史上最低の支持率で推移してきた第二次トランプ政権のもとでも、内部に路線対立を抱えた民主党は当初、ラベルそのものが拒絶反応を招くような「有害(toxic)」ブランドと呼ばれるほどの不人気ぶりだった。
そもそも、2016年大統領選挙時に従来民主党支持基盤を構成してきた労働者層がトランプ支持に流れたのは、民主党が経済面ではミドルクラスや労働者より貧困層の救済に焦点を当てているイメージが強く、社会面では寛容な移民政策、人種・エスニシティにおける多様性の推進、性的マイノリティの権利擁護など、過度に左傾化したアジェンダを推進するエリート集団と認識されていたからである。しかし、トランプ当選後も民主党左派は、選挙に負けたのは十分に進歩的な政策を追求しなかったからと主張してゆずらなかった。
他方で、穏健派は、民主党が支持基盤を立て直すためには、社会的価値を主戦場とせずに、ミドルクラスと労働者をターゲットにした生活経済重視の「中道」路線への明確な軌道修正が必要だとし、党内における左派の過大な影響力を批判した。党内対立を抱えた民主党は、統一的なブランディングができないままずるずると過ごし、2020年選挙では反トランプの機運に助けられバイデン政権を生むが、2024年選挙でトランプの再登壇を許したのである。
突き進む左派
2024年選挙後、穏健派は改めて中道寄りへの軌道修正が民主党復活への道とアピールするが、党内の機運は盛り上がらなかった。方向性が定まらないまま中間選挙に向かうかと思われていたが、揺るぎない姿勢で民主党のコアな支持層を活性化する左派が徐々に話題をさらっていく。
まず、全米的な知名度を誇る左派のスター、バーニー・サンダース(バーモント州選出無所属連邦上院議員)と、アメリカ民主社会主義者(DSA)の会員として知られるアレクサンドリア・オカシオ=コルテス(ニューヨーク州選出民主党連邦下院議員。以下、AOC)が「寡頭制と闘え!」ツアーを2025年2月に開始すると大きな話題になった。トランプを支持した激戦州もまわりながら、トランプ政権への億万長者たちの影響力を批判し、上位 1%への富裕税といった代替案を提示する集会は、全米総計で26万人もの聴衆を集め、驚かれた。
さらに、2025年11月には、34歳の進歩派ニューヨーク州下院議員ゾーラン・マムダニがニューヨーク市長に当選した。マムダニは同市初のイスラム教徒、南アジア系の市長だっただけでなく、民主社会主義者を自称し、2017年からDSAの会員であることが注目を浴びた。家賃凍結、市営バス無料化、無償保育制度、高所得者と大企業への増税を掲げて選挙戦を闘い、共和党陣営はこれを「共産主義者」と批判したが、6月の民主党予備選挙に続き、11月の本選挙でも大差で勝利したのである。ボランティア主体の草の根選挙運動が大きな話題になった。
そして、2026年予備選挙シーズンにも、左派の勝利が話題になった。6月にはニューヨーク州議会の民主党予備選挙で、マムダニとDSAが支援した3人の進歩派候補が有力な主流派現職を破って指名を獲得し、政治的地殻変動といわれた。8月には、ミシガン州の連邦上院議員の民主党予備選挙で、サンダースやAOCの支持を受けた進歩派候補アブドゥル・エル=サイードが、同州知事など主流派指導者たちの支持を受けた対抗馬を破って指名を獲得した。他にも、ミネソタ州の連邦上院議員民主党予備選挙では、サンダース、イルハン・オマル(ミネソタ州選出連邦下院議員)、エリザベス・ウォーレン(マサチューセッツ州選出連邦上院議員)ら名だたる左派議員の支持を受けた進歩派副知事ペギー・フラナガンが、穏健派の現職を大差で破った。
DSAの雌伏雄飛
民主党左派がみなDSAというわけではないが、アメリカ政治においてきわめて周辺的な存在だと長らく思われてきたDSAが、こうした予想外の左派の活躍に伴い注目を集めた。DSAは、旧左翼系の民主社会主義者組織委員会(DSOC)が、新左翼系の新アメリカ運動(NAM)と1982年に合流して、DSAと改称したものである。その後30年間は会員数が伸びず、2012年時点で6500人程度だったが、2016年大統領選挙に向けてサンダースの出馬を促し支持したことが転換点となる。ボランティアとしてサンダースの選挙運動を行なうなかでDSA会員は急速に増え、トランプの当選後にさらに若者が大量に流入した(トランプ・バンプと呼ばれる)。2021年に9万4000人のピークを迎えた会員数は、バイデン政権期にほぼ半減するが、トランプが再選された2024年選挙後にまた急増し、マムダニの選挙運動中に倍増して、2026年7月までに12万人を超えた。ショックや怒りだけでなく、希望がDSA参加の原動力となっていることを推測させる。
