フランチェスカ・アルバネーゼ(翻訳=甘糟智子)
※特別報告者は国連人権理事会に任命された個人の独立専門家で、特定の国における人権状況やテーマ別の人権状況について調査、監視、報告を行なう。アルバネーゼ氏はイタリア出身の研究者で、イスラエルによるガザ攻撃を強く批判してきた。今年7月10日、米国はアルバネーゼ氏に制裁を科すと発表。国連は撤回を求めている。
【関連】アルバネーゼ報告を読む
・「世界はこの報告書を受け止められるか――アルバネーゼ報告の射程と意義」早尾貴紀(東京経済大学教授)
・「国際人権法へのあからさまな攻撃を前に沈黙という選択肢はない――トランプ政権による国連特別報告者に対する制裁」小坂田裕子(中央大学大学院法務研究科教授)
Ⅰ 序文
1 植民地事業とそれに伴うジェノサイドを、歴史的に推進し、また可能としてきたのは、企業セクターである。商業的利益は先住民の土地の剝奪に寄与しており、これは「植民地的人種資本主義(コロニアル・レイシャル・キャピタリズム)」と呼ばれる支配形態である。同様の構図はイスラエルによるパレスチナの土地の植民地化、そのパレスチナにおける占領地の拡張、そして入植者植民地主義的アパルトヘイト体制の制度化にも当てはまる。イスラエルは何十年にもわたり、パレスチナ人の自己決定権を否定してきたが、いまやパレスチナにおけるパレスチナ人の存在そのものを脅かしている。
2 イスラエルによる違法な占領、およびガザ地区で進行中のジェノサイド攻撃を支えている法人組織の役割が、本調査報告書の主題である。特に本報告書は、イスラエルの入植者植民地主義における「排除」と「置き換え」の二重の論理、すなわちパレスチナ人の土地を奪い、パレスチナ人の土地から彼らの存在を抹消する行為を企業利益がいかに下支えしているかに焦点を当てている。特別報告者が報告する法人組織は、兵器製造、テクノロジー、建設関連、資源採掘、サービス、銀行、年金基金、保険、大学、慈善団体と多岐にわたる。これらの法人組織は、占領下にあるパレスチナの自己決定権の否定を含む構造的な人権侵害、すなわち、占領、併合、アパルトヘイトおよびジェノサイド犯罪に加え、それに付随する差別、無差別破壊、強制移住、略奪から超法規的殺害、飢餓に至る一連の犯罪行為と人権侵害を可能にしている。
3 適切な人権デューデリジェンスが行なわれていれば、法人組織ははるか以前にイスラエルによる占領から撤退していたはずである。ところが、2023年10月以降、法人組織は、ガザ地区を壊滅させ、ヨルダン川西岸で1967年以来最大規模のパレスチナ人の強制移転をもたらした軍事作戦全体を通じて、排除・置き換えの過程の加速に加担してきた。
4 被占領地パレスチナでの搾取における法人組織の数十年にわたる黙認的関与の規模と範囲を完全に把握することは不可能であるが、本報告書は、入植者植民地主義に基づく占領経済とジェノサイド経済とが一体化している実態を明らかにしている。本報告書において、特別報告者は法人組織およびその経営幹部の国内外における責任追及を求めている。無辜の人々の抹殺を可能にし、そこから利益を得る商業活動は、ただちに終止されねばならない。法人組織は人権侵害および国際犯罪への加担を拒否しなければならず、さもなくば責任を問われるべきである。〔……〕
Ⅳ 入植者植民地主義に基づく占領経済からジェノサイド経済へ
22 入植者植民地主義とは、土地の所有者を排除することで、その土地を搾取し、利益を享受し、植民地化を進めるものである。パレスチナではアラブ系住民の排除と置き換えというプロセスが、入植者植民地主義に基づく抹消の論理の核心を成しており、歴史的に企業がこれを推進、可能にしてきた。1901年に土地買収を目的として設立された法人組織であるユダヤ民族基金は、パレスチナのアラブ人の段階的排除の計画と実行を支援した。その排除はナクバを契機に激化し、以来、現在に至るまで継続している。
23 イスラエルは特に1967年以降、法人組織のさらなる支援を受けつつ、パレスチナにおける土地剝奪と強制移転を進めてきた。企業セクターは、住宅や学校、病院、娯楽施設、礼拝施設、生計手段、オリーブ園や果樹園などの生産資産を破壊し、またコミュニティを隔離・統制し、天然資源へのアクセスを制限するために必要な武器や機械を提供し、この計画に実質的な貢献を果たしてきた。さらに、被占領地パレスチナにおける違法なイスラエルの存在の軍事化およびその促進を支援することによって、パレスチナ人に対する民族浄化(エスニック・クレンジング)の条件の形成に加担してきた。
24 法人組織は占領地におけるイスラエルの拡張を支えつつ、パレスチナ人の置き換えを促進し、パレスチナ経済の抑圧に重要な役割を果たしてきた。貿易・投資、植林、漁業、共同体への水供給などに対する苛烈な規制は、農業および産業を弱体化させ、被占領地パレスチナを囲い込まれた市場へと変貌させた。企業はパレスチナの労働力と資源を搾取し、天然資源を破壊・転用し、入植地を建設し、それに電力を供給し、そこから派生する商品やサービスをイスラエル、パレスチナ被占領地、さらには世界市場で販売・宣伝することで利益を上げてきた。ヨルダン川西岸およびガザ地区に関するイスラエル・パレスチナ暫定合意(オスロ合意Ⅱ)はこのような搾取構造を固定化し、資源豊富なヨルダン川西岸地区の61%(C地区)に対するイスラエルの事実上の独占を制度化した。この搾取によってイスラエルは利益を得ている一方、パレスチナ経済はその国内総生産(GDP)の少なくとも35%に相当する損失を被っている。
25 金融機関や学術機関もまた、パレスチナ人の排除と置き換えの条件を整えてきた。銀行、資産運用会社、年金基金、保険会社は、違法な占領に資金を流入させてきた。また知的成長と知的権力の中心地たる大学は、パレスチナ領の植民地化を正当化する政治的イデオロギーを支え、兵器を開発し、組織的な暴力を見逃し、あるいは容認してきた。また国際的な研究協力は、学問的中立性というベールの下、パレスチナ人の抹消を覆い隠してきた。
26 2023年10月以降、長年にわたる支配・搾取・剝奪のシステムは、集団的暴力と甚大な破壊を遂行するための経済的・技術的・政治的インフラへと変貌した。これまで占領経済の下でパレスチナ人の排除と抹消を可能にし、そこから利益を得てきた法人組織は、手を引くどころか、現在ではジェノサイド経済に加担している。
27 以下の各セクションでは、排除と置き換えを基盤とする入植者植民地主義経済の中核的柱を通じて、主要な8つの産業部門が個別に、また相互に依存しながら機能し、そのジェノサイド的実践にいかに適応してきたかを示す。
A 強制移転
28 2023年10月以降、パレスチナ人の追放を進めるために使用されていた武器や軍事技術は、大量殺戮と破壊のための道具と化し、ガザ地区およびヨルダン川西岸の一部を居住不能な状態にしてきた。通常は隔離/アパルトヘイトを強制する手段として用いられていた監視や拘禁技術は、パレスチナ人全体を無差別に標的とするための装置へと進化した。かつてヨルダン川西岸で住宅の解体、インフラの破壊、資源の接収に用いられていた重機は、ガザの都市空間を消し去り、追放された住民の帰還と共同体再建を阻むために転用されている。




