言論であらたな地平をひらく
編集長 熊谷伸一郎
私たちは、2024年6月、あらたな言論の拠点として、雑誌『地平』を創刊します。
時代が提起する課題と向き合い、思索し、そして変革をめざす風が興るとき、そこには必ず雑誌という形で言論の拠点が存在します。
私たちがめざすのは、まさにそのような雑誌です。
いま、コトバへの信頼が揺らいでいます。
マスメディアの多くが「強い者」に忖度あるいは同化する姿勢とコマーシャリズムに陥り、デジタル化の波とともに溢れだした情報もまた、ステルス・マーケティング、炎上商法、ヘイトスピーチ、フェイクニュースなどによって、コトバへの信用を失わせています。
かつて宮沢賢治は、「まことのことばはうしなはれ」たことへの「はぎしり燃え」るような憤りを詩にしました。私たちは今こそ、「まことのことば」による議論が必要だと感じています。
戦後の民主主義と平和主義が根底から崩され、ネオリベラリズムは私たちの生活・労働と「公共」を壊しています。そして気候変動をはじめとする環境の危機は、私たちの種としての生存さえ脅かそうとしています。
こうした危機を前にして、この社会に閉塞感と停滞があるとすれば、それはつまるところ、思想の閉塞であり、言論の停滞ではないでしょうか。
いま求められていることは言論の復興であり、私は、それは可能であると信じます。
パブリックな関心を持つ人々による独立したフォーラムとして、世界に開かれた知的好奇心を失わない人々の拠点として、月刊誌『地平』を創刊します。
多くの人びとの参加を呼びかけます。
略歴
熊谷伸一郎(くまがい・しんいちろう)
1976年8月生まれ。フリージャーナリストを経て2007年、岩波書店『世界』編集部に参加。2018年7月から2022年9月まで同誌編集長をつとめる。
在職中の17年間に2000本以上の雑誌企画を担うとともに、単行本や新書、ブックレットなどを30冊以上担当。『世界』編集長在任中、3年連続で販売部数・定期購読部数を伸ばすとともに、調達見直しや残業削減などの改革も進め、同誌の刊行を維持する。2023年7月、独立のため退職。
著書に『なぜ加害を語るのか』(岩波ブックレット)、『反日とは何か』(中公新書ラクレ)、『金子さんの戦争』(リトルモア)、『私たちが戦後の責任を受けとめる30の視点』(合同出版)、坂本龍一氏らとの共著に『非戦』(幻冬舎)など。
趣味は読書とバイクと音楽。東京・八王子で妻と子ども3人と猫とともに暮らす。